今回は製品の差別化について考えてみます。
差別化とは消費者に競合他社と自社の製品・サービスとの違いを認識してもらうためのアプローチです。
したがって、差別化戦略を考える際は、企業全体のマーケティング戦略として捉える場合が多いです。
それ自体は間違っていないのですが、もっと製品そのものの差別化について焦点を当てて考えてみても良いのではないかと思い、筆を執りました。
というわけで、製品の差別化要素に関して考えてみたところ
合計10個に分けられると考えました。
自社製品の差別化を考える際、あるいは世の中の好調な製品がなぜ売れているのかを考える際、ご活用頂ければと思います。
不足要素がありましたら、ご報告頂けると助かります。
0.差別化要素の定義
念のため、本記事での差別化要素の定義を示しておきたいと思います。
差別化要素とは「顧客にとって、価格以外で明確に魅力を認識できる競合他社との製品の違い」を指します。
あくまで製品の違いなので、宣伝広告方法や、企業のブランドイメージはこれには入りません。
また、次に挙げる10個の差別化要素は全ての製品に当てはまるわけではありません。
当然、製品によって、違いがあっても魅力を感じない場合もあるのです。
どの差別化要素で実際に差別化できるか、製品ごとに考える必要があるのです。
1.差別化要素① 目的
差別化要素の1つ目は目的、つまり製品の使い道です。
そもそもその製品はどんな目的を達成する製品なのかということですね。
1-1.用途による差別化事例
用途による差別化の例としては任天堂のゲーム機『Nintendo DS』があります。
従来のゲーム機はその名の通り、遊ぶことを目的としたゲーム用の機械として販売されてきました。
しかし『Nintendo DS』では『脳を鍛える大人のDS』はプレイすることで脳の機能低下を防ぐことが目的として作られたソフトが発売されました。
このことで、ゲーム機は単に遊ぶだけの機械という、従来の用途とは違う使い方が生まれした。
このように、用途転換は製品の差別化要素の一つとなります。
1-2.目的による差別化の注意点
目的による差別化を考える際、主たる目的と、補助的な目的を区別する必要があります。
例えば先に挙げた『Nintendo DS』は主たる目的はゲームで、脳の機能低下防止は補助的な目的です。
この主たる目的と補助的な目的が逆転すると、競合製品が変わります。
もし『Nintendo DS』の主たる目的が脳の機能低下になれば、様々な医学療法と競合しなければならないでしょう。
2.差別化要素② 手段
手段による差別化は、製品を広い意味で捉えます。
目的が同じでもその達成する手段が異なれば、差別化されていると考えられます。
手段による差別化の例としては、『移動手段』があります。
例えば東京から大阪へ移動するとしたら、自動車、新幹線、飛行機と様々な方法が考えられます。
これらは移動手段として競合しており、目的達成の手段で差別化されていると言えるのです。
2-1.手段による差別化の注意点
移動手段の差別化の例を見てお気づきかと思いますが、手段が異なれば製品そのものが異なる場合が多いです。
しかし、競合と差別化を考える際、この視点は非常に重要となります。
例えば、コカコーラとペプシコーラの差別化を考えるのか、炭酸飲料全体の差別化を考えるか、という視点によって、必要な対策は変わってくるのです。
3.差別化要素③ 性能
性能とはその製品の数値化できる能力を指します。
差別化と聞いて真っ先に思い浮かぶのが、性能ではないでしょうか。
日本は高い技術力により、高性能製品を次々と開発することで、経済大国2位まで成長しました。
今は残念ながら、その地位を中国に明け渡したのですが、これは差別化要素を性能に依存し過ぎたからかもしれませんね。
3-1.性能による差別化の注意点
性能による差別化の注意点は、顧客に認識できる違いでなければならないということです。
性能は、ある一定水準を越えると顧客にその違いがほとんど違いが認識されなくなってしまいます。
その結果として、コモディティ化問題が発生しています。
また、日本のテレビの『4Kテレビ』などは性能の過剰供給だと、度々批判されています。
4.差別化要素④ 機能
機能とはその製品で選択可能な役割を指します。
先に挙げた差別化要素『目的』と被る面もあります。
目的が違えば、それに付随する機能が変わることが多いためです。
しかし、先の『Nintendo DS』の事例では目的が違っても機能は同じでしたし、
例えば液晶テレビの『視聴予約機能』や『オンタイマー機能』は視聴という目的に対して様々な機能があります。
これらのことから、差別化要素として目的と機能は区別するべきだと考えました。
4-1.機能による差別化の注意点
機能による差別化の注意点は、高機能化を追求することで、製品として複雑になってしまうという点です。
要は、出来ることが多すぎて、結局何ができるかわからないという状態です。
これでは顧客に対して魅力を感じさせることができないでしょう。
5.差別化要素⑤ 信頼性
製品の信頼性も差別化要素になり得ます。
具体的には、製品の故障率などが挙げられます。
製品の目的は確実に達成できるか、目的達成が長期に渡って保障されるかが信頼性向上のポイントとなります。
5-1.信頼性による差別化の注意点
ここでいう信頼性には、企業ブランドによる信頼性や、製品が故障した際の保証やアフターサービスは製品そのものの差別化の範囲から外れるので注意が必要です。
しかし、こういった観点から信頼性を向上させることも重要なので、念頭に置いておきましょう。
また、製品の信頼性に関しては、一般的に日本国内においては差別化されにくいと考えられます。
「品質は保証されていて当たり前」と考えが大多数を占める為です。
逆に信頼性の尺度が競合他社より著しく低いと、市場から撤退せざるを得ないでしょう。
6.差別化要素⑥ 手軽さ
製品の手軽さ、使いやすさも製品の差別化要素の一つです。
一般的に、製品の差別化要素『機能』を減らすことで、使いやすさが向上するので、
一見するとトレードオフの関係に思えますが、そうではありません。
例えば、自動車の自動運転機能は、車の乗りやすさ・使いやすさを向上させる機能であると言えます。
従って、機能と手軽さは区別しておくべきなのです。
6-1.手軽さによる差別化の注意点
手軽さで差別化する際は、ユーザー視点が何よりも重要であると言えます。
作り手側の一方的な思い込みで手軽さ、使いやすさを追求してもほとんどは成功しないでしょう。
その為には、ユーザーの意見を汲み上げる仕組みが必要なのです。
7.差別化要素⑦ サイズ
製品の大小が差別化されることがあります。
例えば、自動車は軽自動車からワゴン車まで様々なサイズの車があり、
これらは大きさによって差別化されていると言えるでしょう。
また、サイズ変更にともなる軽量化もこの区分になります。
8.差別化要素⑧ デザイン
デザインは差別化要素の一つです。
洋服はデザインで差別化される製品の代表例でしょう。
一般的に性能・機能等による差別化が行き詰ると、デザインによる差別化が行われる傾向にあります。
8-1.デザインによる差別化の注意点
デザイン性の尺度は非常に主観的であることに注意が必要です。
これは手軽さの注意点に挙げた、ユーザへの入念なヒアリングでも達成できないのです。
なぜなら、大衆受けするデザインは”無難”なものになりがちだからです。
したがって、デザインで差別化し、高いシェアを確保することは一般的に困難であることが多いと言えます。
9.差別化要素⑨ 利用者数
ネットワーク外部性が働く場合、利用者数が差別化要素になる場合があります。
例えば、オンラインゲームはネット上の他のプレイヤーとの対戦・協力プレイが面白さの一つです。
仮に、あるオンラインゲームを誰もプレイしていなければ、そのゲームは価値を持たないでしょう。
逆にプレイヤーが多いオンラインゲームはそれだけ価値が向上するので、他ゲームと差別化ができるのです。
9-1.利用者数による差別化の注意点
利用者数で差別化できる製品は、いかに早い段階で多くのシェアを確保するかが、競合に打ち勝つ為のポイントとなります。
そのため当初は赤字覚悟で価格設定を行う必要性も出てくるでしょう。
世のオンラインゲームのほとんどが無料でプレイできるのは、こういった理由もあるのです。
10.差別化要素⑩ 補完財
補完財とは相互に補完関係にある製品のことです。
例えば、スマートフォンとアプリ、自動車とガソリンなどです。
このような関係がある製品は、補完財の価値や数量を増加させることで、もう一方の価値を向上させることができます。
スマートフォンであれば、ダウンロードできるアプリの数や、アプリの品質が向上すれば、そのスマートフォン自体も差別化できるのです。
アップルがアップストアに登録するアプリに審査を必要としているのは、こうした理由からですね。
11.まとめ
いかがでしたでしょうか。
簡単ではありますが、製品の差別化要素を10個に分類してみました。
お気づきかと思いますが、例えば機能を減らせば、手軽さ(利便性)が向上するように、
一つの要素を変更するのことで、他の要素も連動して変化することが多いです。
競合製品とどのように差別化されているか、この10項目に当てはめて考えてみるのも面白いかもしれませんね。