はいどうも、中小企業診断士のたかぴーです。
今回は独占による死荷重をテーマに解説していきたいと思います。
独占禁止法なんて法律がありますが、この論点を学習すると、なぜ独占が禁止されているのかが理解できるようになるかと思います。
これまで学習してきた内容がわかっていれば、そんなに難しい内容ではないので、ぜひ最後までご覧いただき、理解を深めてください。
消費者余剰と生産者余剰
まずは前回の復習です。
余剰とは、取引による利益のことで、横軸に取引量、縦軸に価格を取ると、需要曲線は右肩下がりの直線、供給曲線は右肩上がりの直線で表せるのでした。
そして、需要曲線と供給曲線の交わったところで価格が決まり、需要曲線と価格の間の領域を消費者余剰、供給曲線と価格の間の領域を生産者余剰と呼ぶのでしたね。
この価格と各曲線の間の領域が余剰だという考え方は、この後も使っていきますので、改めて確認しておいてください。
この辺りがよくわからないという方は、前回の記事を見てから戻ってきていただければと思います。
独占とは?
ここからは本題の独占についてですね。
独占とは売り手が市場で1社しか存在しない状態のことを言います。
先ほど次のような需要曲線と供給曲線を確認しましたが、複数の供給者が存在する完全競争市場では、需要曲線と供給曲線の交点で、市場均衡価格が決まり、そのときの取引量は4個となるのでしたね。
市場に独占企業の1社しかない状態ではこの前提が崩れます。
つまり、独占企業がほぼ自由に価格も生産量も決められるという立場になります。
この状態が、市場にどのような悪影響及ぼすのかということを、この後見ていきたいと思います。
独占企業の限界収入曲線
独占企業が市場に及ぼす影響を考えるために、独占企業の限界収入曲線を考えたいと思います。
限界収入とは、生産量を1つ増加させたときに増加する収入額のことをいいます。
図を使いながら、内容を確認してみましょう。
ある独占企業の需要曲線が次のように与えられていたとします。
生産量が3個→4個→5個と増加するたびに価格が少しずつ下がっていることが読み取れますね。
これは市場でより多くの商品を売りさばくには、価格を少しずつ下げなければいけないということを表しています。
一方、収入額について確認してみましょう。
生産量が3個のときは価格が250円なので、収入は3個×250円=750円と計算ができます。
同じように4個のときは900円、5個のときは1,000円となるわけですね。
ここで限界収入を確認してみましょう。
限界収入は生産量を1つ増加させたときに増加する収入額なのでしたね。
3個から4個に増加させると収入額は+150円、4個から5個に増加させると+100円増えていることがわかります。
この内容を左のグラフに反映してみると、生産量が4個のときの限界収入は150円、5個のときの限界収入は100円ということになります。
これを直線で結んでみると、限界収入曲線はこのような右肩下がりの直線として表すことができます。
この限界収入曲線はには2つの特徴があって、限界収入曲線と横軸の交点は、需要曲線と横軸の交点と原点のちょうど真ん中の点、つまり中点となります。
また、限界収入曲線の傾きは、需要曲線の傾きの2倍となるのですね。
これは数学的に証明できるのですが、本試験でその証明が求められることは無いので、ここでは説明を割愛したいと思います。
ここでは、限界収入曲線と横軸のは交点が中点になることと、傾きが2倍であるという結論だけ覚えていただければと思います。
独占企業の利潤最大条件
続いて限界費用曲線についても確認したいと思います。
限界費用とは、生産量を1つ増加させたときに増加する費用のことをいいます。
先ほどは収入面、今度は費用面を考えるわけですね。
横軸に供給量、縦軸に費用を取ると、平均可変費用曲線と平均費用曲線はこのように表され、限界費用曲線は2つの曲線の最下点を通る、このような曲線として表されます。
この辺の詳しい内容は、また別の記事で解説しようと思いますので、今回はそのようなものなのかとご理解いただければと思います。
ここで重要なのは限界費用曲線と平均費用曲線の交点が操業停止線と言われ、平均費用曲線と限界費用曲線との交点は損益分岐点ということです。
グラフを素直に読み取ってみると、操業停止点から生産量を増やしていくと、企業はいずれ損益分岐点を超え、さらに生産量を増加すると利益が生まれてくると読み取れますね。
逆に操業停止点から左側の領域はいくら生産したところで赤字が拡大していきますので、企業としては生産を行うインセンティブが働きません。
以上のことから、余剰分析においては、この操業停止点より右側の領域を供給曲線として採用して分析することになります。
特に独占における余剰分析では、限界費用曲線=供給曲線として描かれているので、念のため解説をしておきました。
独占企業の利潤最大化条件
それではここまでの内容を踏まえて、独占企業の利潤最大化条件を確認してみましょう。
独占企業は限界収入と限界費用が等しくなるような生産量とその価格を採用します。
生産量を1つ増やすことで得られる追加的な利益と、追加的な費用がぴったりと等しくなるまでなるギリギリまで生産を行うというわけですね。
企業は利潤最大化を目的として経済活動をしますので、限界まで利益を出そうとする点には納得感があるかと思います。
それでは、利潤最大化を達成したときに、余剰分析をしてみましょう。
先ほどまで学習した、需要曲線と限界収入曲線、限界費用曲線をグラフで表してみました。
限界費用曲線を供給曲線とみなしている点を改めてご確認ください。
ここで、独占企業の利潤最大化条件は限界収入=限界費用となる生産量なのでしたね。
ですので、限界収入曲線と限界費用曲線の交点が、この企業の利益が最大になる生産量となります。
ここで、このとき価格は、あくまで需要曲線側で決まるという点に注意です。
生産量が3個のときの価格は需要曲線との交点である250円となります。
仮に限界収入曲線との交点の200円で価格設定してしまうと、むやみに安売りしてしまうことになりますからね。
ちょうど3個を売りさばくことができるだけのギリギリの価格は、需要曲線との交点である250円ということになるわけです。
それでは、このときの余剰を確認してみましょう。
消費者余剰は需要曲線と価格の間の領域、生産者余剰は供給曲線と価格の間の領域で決まるのでした。
限界収入曲線を用いて供給量と価格がどのように決まるのかさえ理解できれば、余剰を導き出すのは、そこまで難しい話ではないかと思います。
独占による死荷重
それでは最後に独占による死荷重を確認してみましょう。
独占状態になると、失われた社会的余剰、つまり死荷重が発生することになります。
先ほどと同じような需要曲線と供給曲線を描いてみます。
もしこれが完全競争市場なのであれば、生産量は需要曲線と供給曲線の交点である4個、価格は225円となるわけですね。
そのときの消費者余剰は、需要曲線と価格の間の領域、消費者余剰は供給曲線と価格の間の領域となります。
一方、先ほど確認した通り、独占市場での消費者余剰と生産者余剰は、次のように表されるのでしたね。
先ほどの完全市場と見比べると、ちょうど多くの黒三角形の部分が、余剰として失われていることが読み取れるかと思います。
ですので、この三角形の部分が死荷重ということになるわけですね。
市場が独占状態となり、独占企業が自社の利潤だけを追い求めることで、本来あるべき供給量が少なくなり、価格も割高となってしまうことで、市場から余剰が失われてしまうということが読み取れます。
こういったことを背景に、独占は禁止すべきだと主張されているわけですね。
企業経営を考えていく上では、いかに競争が少なく、独占的な市場を開拓できるかが重要なわけですが、社会全体で見ると独占状態は望ましくない言うわけです。
この辺の矛盾が見えてくることが、診断士試験で複数の勉強することの1つの面白さかと思います。
過去問を解いてみよう (平成30年度 第13問)
それではここまでの内容を、過去問を解いて復習してみましょう。
下図は、独占企業が生産する財の需要曲線D、限界収入曲線MR、限界費用曲線MC を示している。この図に関する記述として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a 独占企業が利潤を最大にするとき、完全競争を想定した場合と比較して、消費者余剰は減少する。
b 独占企業が利潤を最大にするとき、完全競争を想定した場合と比較して、総余剰は増加する。
c 独占企業の利潤が最大になる生産量はQ1であり、そのときの価格はP1である。
d 独占企業の利潤が最大になる生産量はQ1であり、そのときの価格はP2である。
[解答群]
中小企業診断士試験 経済学 平成30年度 第13問
ア aとc イ aとd ウ bとc エ bとd
独占状態と完全競争状態を比較した内容に答える問題ですね。
選択肢から1つずつ見ていきましょう。
✅選択肢a
独占企業が利潤を最大にするとき、完全競争を想定した場合と比較して、消費者余剰は減少するとあります。
こちらの内容を、図で確認してみましょう。
まず完全競争の消費者余剰は、取引数量がQ0、価格はP0となりますので、消費者余剰はこの赤三角の領域となります。
一方、独占状態では取引数量がQ1,、価格はP1となりますので、消費者余剰は赤で塗りつぶした領域のうち、さらに小さな赤の三角形で表した領域となるわけですね。
明らかに消費者余剰が減少していますので、選択肢aは正しい記述となります。
✅選択肢b
独占企業が利潤を最大化するとき、総余剰は増加するとあります。
独占が発生してしまうと黒三角形で塗りつぶした領域が死荷重として市場から失われるのでしたね。
総余剰は減少するということになりますので、選択肢bは誤りとなります。
✅選択肢c,d
企業の利潤が最大になる生産量はQ1であり、そのときの価格はP1かP0かという問題ですね。
独占状態のときの価格は、限界収入曲線との交点ではなく、あくまで需要曲線との交点で決定しますので、価格はP1となります。
ですので、選択肢cが正しい記述となりますね。
以上から、選択肢アがこの問題の正解となります。
独占により、市場にどのような影響があるのかという基本的な内容を押さえていれば、そこまで難しい問題ではなかったかと思います。
より難しい問題になると、このグラフに平均費用直線や平均可変費用曲線が追加されて出題されるケースがありますので、慣れてきたらそのような問題にもぜひチャレンジしてみてください。
まとめ
それでは最後にまとめです。
市場が独占状態になることで社会的余剰が失われ、死荷重が発生することになります。
独占企業の利潤最大化条件は、限界収入=限界費用となる生産量ですので、グラフを用いて考えてみると、限界収入曲線と限界費用曲線の交点である3個で、生産量が定まることになります。
そのときの価格は限界収入曲線との交点ではなく、需要曲線との交点である250円となるのでしたね。
余剰については、消費者余剰が需要曲線と価格の間の領域、生産者余剰は供給曲線と価格の間の領域で決まり、この黒三角形で表した部分が、独占による死荷重として読み取れのでした。
余裕がある方は、限界収入曲線と横軸との交点は、需要曲線との交点と原点の中点であること、限界収入曲線の傾きの大きさは、需要曲線の傾きの大きさの2倍であるということを念のため覚えておきましょう。
はい、というわけで、今回は独占による死荷重をテーマに解説してみました。
ここに来て、これまで学んできた余剰分析や生産関数、総費用曲線などの考え方が複合的に用いられて、この論点が説明されていることがわかるかと思います。
経済学はこのように一つ一つの論点を積み上げて、新しい論点を学んでいくことが多いので、どこか1つでもわからないことがあれば、動画概要欄の再生リストからわからない論点の動画をチェックして、理解を深めておいてくださいね。