ビジネスの現場で、スケールメリットという言葉を聞いたことはありませんか?
直訳すると「規模の利益」となりますが、具体的にはどういった意味があるのでしょうか。
実はスケールメリットは、正しく訳すと「規模の経済」で、経済学や経営学の用語の一つとなっています。
しかし、現実にはスケールメリットという言葉はビジネスの現場では正しく利用されていないのが現実です。
「規模が大きい」=「メリットがある」という単純な使用場面が多いのですが、これは正確には誤用です。
言葉はニュアンスだけでいい加減に使ってしまうと、恥ずかしい思いをするだけなく、相手にも誤解を与えてしまいかねません。
そこで今回はスケールメリットの本来の意味を正しく理解し、スケールメリットが生まれない事例について考えていきましょう。
1.スケールメリットの本来の意味とは
冒頭でも触れたとおり、スケールメリットとは、経済・経営学用語の規模の経済のことを指します。
規模の経済とは、生産量・販売量が増加することによって、商品1単位あたりの費用が減少することです。
商品を作ったり売ったりする量が増えれば増えるほど、商品1個あたりの生産・販売コストが減るというのです。
規模の経済が引き起こされる理由は、生産量・販売量が増加しても固定費が一定であるためです。
詳しく考えていきましょう。
会社の費用は大まかに、固定費と変動費でわかれます。
固定費とは工場などの建物や機械設備にかかる減価償却費や、人件費などが挙げられます。
一方、変動費は商品を作る際の仕入れ代などがありますね。
たとえば、固定費が100円で、商品1個あたりの仕入れ代が5円かかる商品があるとしましょう。
これを1個から50個作ったときの、固定費・変動費・商品1個当たりの費用は次のグラフのようになります。
※1個当たりの費用=(固定費+変動費)÷生産量
商品をどれだけ増やしても、同じ工場と同じ数の従業員で作れるのなら、固定費は一定です。
一方、変動費は商品の数が増えれば増えるほど、比例して増加していきますが、固定費が一定のため、結果として商品1個あたりの費用は下がっていくのです。
上のグラフの赤線で示した「1個当たり費用」が生産量が増えるたびに減少している様子が読み取れるかと思います。
つまり、スケールメリットとは、固定費が一定であるために、生産量・販売量が増加することによって、商品1個当たりの費用が少なくなることをいうのです。
2.スケールメリットのメリットとデメリット
スケールメリットの最大の利点(メリット)は、価格競争力がつくことです。
これまで見てきたように、商品1個あたりの平均費用が下がるので、その分販売価格を下げても利益率は変わりません。
例えば同じ商品を販売しているA社・B社のケースで考えてみましょう。
A社では費用50円、販売価格100円であるのに対し、B社では費用30円、販売価格90円だとします。
この場合、B社の方が販売価格が低いにもかかわらず、B社の方が利益率が高くなります。(利益率:A社は50%、B社は66%)
このようなスケールメリットを生かして良質な製品を大量生産し、低価格で販売することで市場を席巻することが、大企業の基本戦略であると言えます。
また、スケールメリットを発揮するには、大量生産が前提となるので、大規模な生産設備も必要となります。
したがって、既にスケールメリットが発揮されている市場に新規参入し、価格面で対抗するためには、新規参入側にも大規模設備が必要となるため、結果的に参入が困難となります。
このように、スケールメリットが新規参入企業にとっての、参入障壁となることも、スケールメリットの利点のひとつと言えるでしょう。
一方で、スケールメリットにもデメリットが存在します。
先ほどから触れている通り、スケールメリットの発揮には大規模設備の導入が不可欠です。
もし需要予測を見誤ってしまうと、多額の投資資金をかけた上で過剰に在庫を余らせてしまうリスクがあります。
このようなリスクがスケールメリットのデメリットといえるでしょう。
3.スケールメリットの誤用事例①ソフトウェア開発費
ここからはスケールメリットの誤用事例について見ていきます。
ここまで説明したように、スケールメリットが働く理由は、固定費が一定であるためです。
したがって、生産量・販売量が増加するにつれて、固定費も増加する場合はスケールメリットは働きません。
たとえば、ソフトウェアの生産量が増加すればスケールメリットが発揮されるというのは間違いなのです。
ゲームなどのソフト開発について考えてみましょう。
ソフトの開発費用のほとんどは、人件費があてられます。
一度にたくさんのゲームソフトを開発しようと思ったら、それだけ人を多く雇って開発しなければならないわけですね。
人件費は固定費に分類されますので、ソフト開発の場面では生産量が増加しても固定費が増加するので、スケールメリットは生まれにくいと考えられるのです。
なお、ソフトの販売については全くの正反対です。
一度作ったソフトは、いくら販売量が増加してもほとんどの費用がかかりません。
なぜなら、データをコピーしてCDなどにコピーするだけだからです。
生産に関してはスケールメリットは発揮されませんが、販売に関しては大きくスケールメリットが発揮されるのが、ソフト業界の特徴といえますね。
4.スケールメリットの誤用事例②店舗数拡大
店舗数が拡大することで、スケールメリット発揮されるというのは間違いです。
たとえば、コンビニの売上増加について考えてみます。
コンビニの売り上げのほとんどは、立地で決まってしまうと言われています。
駅前のコンビニと、路地裏のコンビニでは売上高が全く異なるのは簡単に想像できますよね?
確かに店舗の自助努力によって多少の売上増加は見込まれますが、基本的に1店舗あたりの売上高は立地で決まり、そこからはあまり変わらないと考えてよいでしょう。
それでは大手コンビニ会社のセブンイレブンやローソンなどは、どのように売上高を増加させているのでしょうか?
答えは店舗数を増加させることです。
全国の至る所に店舗を建て、販売量増加を達成しているのです。
しかし、ここで気づいて欲しいのが、店舗という建物と、そこで働く人々は全て固定費であるということです。
つまり、コンビニなどの小売店は、店舗拡大によって販売量を増加させることができますが、それに伴って固定費も増加しているのです。
このような場合も、スケールメリットが発揮されているとは言えないのですね。
5.ビジネスにおけるスケールメリットの使用場面
ここまで何度も説明したように、スケールメリットは規模の経済のことで、規模の経済とは生産量・販売量が増加することで商品1個当たりの費用が低下することです。
しかし、ビジネスの現場においてはスケールメリットがもっと広い意味で使われているのが現実です。
たとえば、
- 規模が大きくなることで、ブランド力が向上する
- 規模が大きくなることで、価格交渉力がつき、仕入れコストを削減する
- 店舗数が増加することで、顧客の利便性が向上する
などが挙げられます。
どれも規模の拡大とメリットとの関連付け方には間違いがありません。
もうご存知通り、これらは全てスケールメリットの誤用ですね。
ただし実際のビジネスの現場では、これらの使用方法もよしとする場合もあります。
10年ほど前「全然いい」が誤用とされいたのが正しい日本語とされたように、スケールメリットも本来のそれとは意味が変わろうとしているのです。
したがって、スケールメリットという言葉を使う人がいたら、その人が本来の意味で使用しているのか、広義で用いているのか、注意深く見極めるように注意しましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
スケールメリットは、あくまで固定費に裏付けされた、商品1個当たりの費用の低下を指します。
しかし、ビジネスにおいてはあまりにも誤用が多く見受けられます。
あまりにも誤用が多すぎて、スケールメリットが拡大解釈されている気風さえ感じられるほどです。
スケールメリットという言葉を使っている人がいたら、どういう意味で使っているのか、注意深く聞くようにしましょう。
では!
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