VRIO分析は企業の競争優位性をはかる時に用いられる分析フレームワークのひとつです。
VRIO分析を使えば、分析する企業が将来にわたって競争優位が保てるかを判断することが可能とされています。
確かに、VRIO分析では
「自社の競争のポジションが長期的に保証されているか?」
「ライバル企業を打ちのめすにはどうすればよいのか?」
という問いに答えるために、重要なヒントを与えてくれるかもしれません。
しかし、VRIO分析には3つの問題点があることを忘れてはいけません。
今回紹介するVIRIO分析の問題点を置き去りにした分析は危険だと考えます。
1.そもそもVRIO分析ってなに?
VRIO分析とは、企業の資源や能力に基づいた競争優位の持続性を考える分析フレームワークです。
VRIOとは
- 経済価値(Value)
- 希少性(Rarity)
- 模倣可能性(Imitability)
- 組織(Organization)
という、競争優位の持続性を決定する4要因の頭文字を集めたものです。
VRIO分析では、
- 特定の資源が経済的価値の源泉となり、
- 希少であり、
- 模倣が困難であり、
- 資源を活用できるような組織体制が整っている
という条件がすべて満たされていると、その企業の競争優位は持続可能で、業界標準を上回る収益が期待できると考えています。
具体的な質問項目は、以下のようになります
- 経済価値に関する問い
企業の保有する経営資源や能力は、その企業が外部環境における機会や脅威に対応することが可能だろうか
- 希少性に関する問い
経営資源を現在コントロールしているのは、ごく少数の競合企業だろうか
- 模倣可能性に関する問い
経営資源を保有していない企業は、その経営資源を獲得あるいは、開発する際にコスト上の不利に直面するだろうか
- 組織に関する問い
以上の条件を満たした経営資源を活用するために、組織的な方針や手続きが整っているだろうか
以上の質問に、すべてイエスと答えられれば、その企業の保有している経営資源は持続的競争優位があるといえるのです。
ちなみに、経営資源とはヒト・モノ・カネ・情報のことです。
より具体的にいえば、生産設備や大規模な資金、技術力などが経済価値を生み出す資源にあたるかもしれませんね。
経営資源についてくわしく知りたい方はこちらの記事がおススメです。
関連記事⇒経営資源の意味と最適な配分方法とは
さて、ここまでがVRIO分析の概要です。
VRIO分析の質問にどれだけイエスと言えるかで、その企業の競争優位性とその持続性がわかるというわけですね。
とても便利に思えるVRIO分析ですが、どのような問題点・注意点があるのでしょうか?
2.VRIO分析の問題点ってなに?
VRIO分析には3つの問題点・注意点があります。
その問題点とは
- 何が社会的価値にあたるのかわからない
- 顧客の価値基準は変化する
- ターゲットが異なる企業では比較検討できない
以上の3つです。ひとつひとつ詳しく見ていきましょう。
2-1.問題点①何が社会的価値にあたるかわからない
顧客にとって、何が価値にあたるのかが、本当のところわからない場合が多いのです。
たとえば、iPhoneは日本で最も人気のあるスマートフォンの地位を確立しましたが、iPhoneとそれを開発するアップル社の価値とはなんなのでしょうか?
一般的に、アップル社はブランド力が高いとされいています。アップル製品を持っていると、それだけでクール、カッコイイというイメージがあるのです。
しかし、本当にそのような理由でiPhoneが選ばれているのでしょうか?
もっと掘り下げて考えてみると、
「iPhoneで使えるアプリが好き」
「iPhoneはボタン一つしかなくて使いやすい」
「みんなが買ってるからなんとなく買った」
このような理由でiPhoneの購入を決定した人も多いはずです。
それではこれらの理由のうち、iPhoneの真の価値にあたるのは、どの理由でしょうか?
そうです。答えはだれにもわからないはずです。
たしかに、iPhoneの価値と考えられるもの全てに対してVRIO分析を試みるのもよいかもしれません。
しかし、それでも
「なぜiPoneが日本のスマートフォンシェアNo.1の地位を獲得しているのか」
という問いに答えることも、No.1の座が持続可能なのかに答えることもできないでしょう。
2-2.問題点②顧客の価値基準は変化する
2つ目の問題点は、顧客の価値基準は時間経過とともに変化してしまうという点です。
具体的な事例で考えてみましょう。
かつてアメリカの自動車メーカーであるフォードは「フォード式生産方式」とよばれる生産方法で、単一の自動車を大量に低価格で生産することに成功し、瞬く間にアメリカ全土に自社の自動車を普及させました。
フォードの社会的価値は自動車を低価格で製造する技術力であり、それは希少性があり、模倣困難であり、組織的にノウハウが蓄積されていました。
VRIO分析の理論では、フォードは長期に不動の地位を築けるはずです。
しかし、この地位を日本の自動車メーカーであるトヨタが脅かしました。トヨタは「トヨタ式生産方式」とよばれる生産方法で、多品種の自動車を少量生産することが可能にしたのです。フォードが「少品種大量生産」だったのに対し、トヨタは「多品種少量生産」で勝負をしたのです。
結果として、消費者はトヨタ自動車を好んで購入するようになりました。
だれもが持っているフォード車より、自分好みのデザインや乗り心地を追求したトヨタ車が人気を集めたのです。
まさに顧客のニーズが「低価格」から「自己実現」へと変化した瞬間ですね。
たしかにフォードの生産方式は社会的価値があり、模倣困難なものでした。
しかし、VRIO分析で得られる競争優位の持続性が必ずしも、業界の地位を保証するものではないのです。
それは顧客の価値基準は時間経過とともに変化してしまうためです。
2-3.問題点③ターゲットが異なる企業では比較検討できない
最後の問題点は、ターゲットが異なる企業では比較検討できないという点です。
たとえば、ファッション業界では、顧客の価値基準は大きくわけて2つにわかれます。
- とにかくカッコイイ洋服がほしい
- 安ければデザインなんて二の次
経営学的な表現を使えば、性能重視か、価格重視かというニーズがあるのです。
カッコイイ洋服を着たいと顧客をターゲットにする企業は、優れたデザイナーを雇い、ブランドイメージを高め、人気のモデルに自社の洋服を着てもらうなどのプロモーション活動を行うことでしょう。
また、安い洋服を求める顧客をターゲットにする企業は、最低限の強度の洋服を極力低価格で製造し、流通チャネルも少数に絞り、在庫コストも減らすよう努力をすることでしょう。
どちらも自社のターゲットに対する戦略的なアプローチだといえます。
しかし、この2社が構築する競争優位性は全くもって異なるものだということにお気づきでしょうか?
VRIO分析では競争優位が持続可能かを判断しますが、そもそも目指すべき方向性の異なる企業同士の比較検討はできないのです。
以上のことを踏まえると、VRIO分析が有効な範囲はとても狭いということがわかりますね。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
VRIO分析は競争優位が持続可能かを判断するために有効なフレームワークのひとつです。
しかしこの分析手法は
- 顧客ニーズが明確であり、
- そのニーズは長期にわたって固定的で、
- ターゲットとするユーザー層が企業間で全て同一である
という、極めて限定的な前提条件のもとでしか成立しないのです。
変化の激しく、個人主義というわれるように顧客のニーズが多岐にわたっている現代において、有効なフレームワークであるかは甚だ疑問ですね。