はじめまして。橘恒一と申します。たかぴーさんにお声がけいただき、寄稿させていただきます。
先に立場を明かしておきます。私は中小企業診断士ではありませんし、受験したこともありません。暗記アプリをつくっている会社の人間で、専門は「記憶がいつ落ちるか、いつ復習すれば残るか」という、試験の種類を問わない部分です(詳しくは末尾のプロフィールを見てください)。
ですので、この記事では診断士試験の中身には踏み込みません。どの論点が重要かはたかぴーさんの記事のほうが確実です。私が書くのは、選んだ論点をどの間隔で回すかという一点だけです。数字はすべて、たかぴーさんが公開されているデータか、研究の原典から取っています。
7科目すべてを同じ密度で覚えようとすると破綻する
まず、単純な計算をします。
一次試験は7科目、合計700点。手元の問題集やまとめノートで覚える対象が、7科目あわせて2,000項目あるとします。この数はご自身の教材で数え直してください。ここでは計算の見通しを立てるための仮の数字です。
一問一答の形で、問題を読んで思い出して答えを確認するまで1問15秒。これで毎日ひととおり回すとどうなるか。

2,000問 × 15秒 = 30,000秒 = 8時間20分。毎日です。働きながらでは論外ですし、専業でも厳しい。では毎日でなければどうか。何日かに1回のペースで全体を回す場合、1日あたりの負荷はこうなります。
| 全体を回す周期 | 1日あたりの問題数 | 15秒/問での所要時間 |
|---|---|---|
| 毎日 | 2,000問 | 8時間20分 |
| 3日に1周 | 約670問 | 2時間46分 |
| 7日に1周 | 約290問 | 1時間11分 |
| 14日に1周 | 約140問 | 35分 |
| 21日に1周 | 約95問 | 23分 |
働きながら独学で、暗記の復習に毎日割ける時間はせいぜい30分前後でしょう。過去問演習や計算科目の手を動かす時間は別に要ります。そうすると、1つの論点に会えるのは14日〜21日に1回が上限ということになります。
ここで問題が起きます。
「PDCAサイクル」に3週間ごとに会う必要はありません。一度理解すれば落ちません。一方で、経営法務の株主総会の決議要件や、情報システムの新しい用語は、2週間空けると危うい。それを同じ周期で回すと、簡単な論点を見る時間で、難しい論点を落とすという、いちばんもったいない事故が起きます。
2,000という数字が破綻を生むのではありません。2,000項目を1つのかたまりとして扱うことが破綻を生みます。
この記事で提案するのは、2つの軸で切り分けることです。出題頻度と忘却リスク。順に見ていきます。

軸1:出題頻度 ―― 過去問データから「捨てる論点」を決める
1本目の軸は、たかぴーさんがすでにデータで示されています。
「過去問データブック」の検証記事では、平成27年〜令和6年の10年分の用語データを使い、用語を出題回数で4つに分類したうえで、それぞれの範囲だけで令和7年度の問題を解いたらどうなるかをシミュレーションされています。対象は経営情報システムで、結果はこうでした。
| 対象にした用語 | 得点 |
|---|---|
| 3回以上出題 | 39.9点 |
| 2回以上出題 | 45.2点 |
| 2回以上 + 直近5年で1回出題 | 60.3点 |
| 全用語 | 70.2点 |

この表の読み方で、私がいちばん大事だと思うのは3行目と4行目の差です。
全用語をやれば70.2点。範囲を絞ると60.3点。差は約10点です。一方で、たかぴーさんの検証では、外せるのは用語全体の約3割。残りの10点を取りに行くために、覚える量を約1.5倍にするのかという問いが、そのまま学習計画の問いになります。
もうひとつ、1行目と2行目も示唆的です。「3回以上出題」まで絞ると39.9点で、絞りすぎだと分かります。捨てることには最適点があるということです。多く捨てるほど効率がいいわけではありません。
実務的な使い方としては、こうなります。
- 手元の教材の論点に、出題回数の目印をつける。データブックのような一覧があるなら、それを転記するだけで済みます
- どこで線を引くかは、残り期間で決める。時間がある時期は広く、直前期は狭く
- 切った論点は「捨てる」のではなく「1回だけ見る」に落とす。完全に外すと、本番で見たことすらない状態になります
この時点ではまだ、覚える対象を絞っただけです。回す回数と間隔は、まだ全部同じです。次の軸でそこを変えます。
軸2:忘却リスク ―― 覚えにくい論点だけ回数を増やす
2本目の軸が、私の担当している部分です。
まず、何日空けるのが正解か
よく引き合いに出されるのがエビングハウスの忘却曲線です。ただしこれは1885年に本人が無意味なつづり(意味を持たない音の並び)を覚えた実験で、意味のある論点にそのまま当てはまるものではありません。目安としては面白いのですが、学習計画の根拠にするには弱い。
もう少し使えるのが、間隔をどれくらい空けるべきかを直接調べた研究です。Cepedaらが2008年に報告した実験では、1回目の学習と2回目の復習の間隔、および復習からテストまでの期間を細かく変えて、成績がどう変わるかを調べています。
見えてきたのは、最適な間隔は「テストまでの期間」によって変わるということでした。ただし単純な比例ではありません。論文が報告しているのは、最適な間隔がテストまでの期間に占める割合は、期間が長くなるほど小さくなるという関係です。テストが1週間後なら期間の20〜40%、1年後なら5〜10%が最も成績が良かった。
この研究にはもうひとつ重要な指摘があります。間隔が最適値からずれたとき、短すぎるほうが損失が大きいという非対称性です。長く空けすぎても成績はゆるやかにしか落ちませんが、短すぎると詰め込みに近づいて一気に落ちます。迷ったら長いほうに倒す。1日の負荷が下がる方向と一致するので、実務的にもありがたい結論です。
8月上旬の本試験から逆算すると、おおよそこうなります。

| 本試験まで | 定着した論点を放置していい上限 |
|---|---|
| 1年 | 3〜5週間 |
| 6ヶ月(2月頃) | 2〜4週間 |
| 3ヶ月(5月頃) | 10〜18日 |
| 1ヶ月(7月頃) | 5〜8日 |
| 2週間 | 3〜5日 |
ここで注意点がひとつ。この数字を全部の論点に当てはめてはいけません。これは「一度覚えて、いま思い出せる論点」をどこまで放っておけるかの話です。まだ覚えきっていない論点に3週間空けたら、次に会ったときは初対面に戻っています。
2×2で仕分ける
出題頻度と忘却リスクを組み合わせると、こうなります。忘却リスクは、直前に解いて詰まったかどうかで判定してください。難しそうに見えるかどうかではなく、実際に出てこなかったかどうかです。

| 忘れやすい(詰まった) | 忘れにくい(スラスラ出た) | |
|---|---|---|
| 頻出 | A:毎日〜3日に1回 | B:2〜3週間に1回 |
| 低頻度 | C:週1回。増えすぎたら捨てる | D:1回見て終わり |
配分の例を出します。2,000項目のうち、頻出が1,200・低頻度が800、そのうち詰まるものが3割だとすると、
- A(頻出×忘れやすい):360問 → 毎日
- B(頻出×忘れにくい):840問 → 3週間に1回
- C(低頻度×忘れやすい):240問 → 週1回
- D(低頻度×忘れにくい):560問 → 1回だけ
1日に会う問題数は、360 +(840÷21)+(240÷7)= 約434問。15秒で回せば約1時間49分。まだ多いです。ここで効いてくるのがAを減らすことです。

Aを150問まで絞ると、150 + 40 + 34 = 224問、約56分になります。Aが全体の1割を超えたら、復習時間が足りないのではなく、覚えようとしている範囲が広すぎるサインだと考えてください。
もうひとつ、「見て分かる」と「思い出せる」は別物という点を書いておきます。

解説を読みながら確認するのと、解説を隠して思い出してから答えを見るのとでは、かかる時間はほぼ同じなのに、残る量が大きく違います。思い出そうとする行為そのものが記憶を強くするからで、検索練習と呼ばれています。
厄介なのは体感が逆になることで、読み返すほうがスラスラ進むぶん「できている」感じがします。手応えのないほうが実は効いているので、放っておくと人は読み返す側に流れます。
そして、ここで得られる「詰まったかどうか」の情報が、そのままA〜Dの仕分けの材料になります。思い出す作業と、次にいつ会うかの決定は、セットで初めて意味を持ちます。
問題集3周と暗記を別物として扱わない
たかぴーさんは一次試験の勉強法の記事で「問題集は合計で3周することになりますね」と書かれています。この3周を、そのまま仕分けの装置として使えます。1周目については、たかぴーさんご自身がこう書かれています。
問題集の1周目の段階では、学んだ知識がどのように問題で出題されているかを把握することが主な目的となりますので、テキストを読みながら問題を解いたり、答えがわからなければすぐに解説を読んでしまっても問題ありません
この方針は崩しません。むしろ、1周目に暗記を持ち込まないほうが後が楽になります。1周目で無理に覚えようとすると、理解が浅いまま暗記対象が増え、Aが膨らみます。
3周それぞれの役割を、こう分けてみてください。

1周目:理解する。仕分けはしない
たかぴーさんの方針どおり、解説を読みながらで構いません。この段階で唯一やっておくとよいのは、出題頻度の目印をつけることだけです。データブックのような一覧があるなら転記するだけなので、手が止まりません。
2周目:仕分ける
ここが分岐点です。解説を隠して、3秒だけ考える。出てこなければ「詰まった」と記録して次へ。10秒以上粘るのは時間の無駄です。この作業で全問がA〜Dのどれかに分かれます。2周目の目的は正答率を上げることではなく、自分がどこで詰まるかを知ることです。
3周目以降:間隔に載せる
ここから先は「3周目」という数え方をやめます。A〜Dごとに違う周期で回る状態に切り替わるので、全体を何周したかという数字に意味がなくなるからです。以降は「今日はAとCの日」という回し方になります。
紙で管理するなら、日付ではなく曜日に割り当ててください。論点ごとに次回の日付を書こうとすると破綻します。

- A:毎日
- C:月・木
- B:火・金・土。Bを9つの束に分けて1回に1束ずつ(1論点あたり約3週間に1回)
- D:第1日曜だけ
問題集の余白に A / B / C / D の1文字を書いておけば、あとは「今日は火曜だからBの1束目」で決まります。次の日付を計算する作業がまるごと消えるのが、この方式の利点です。仕分けが変わったら、文字を書き換えるだけ。
暗記科目と計算科目で設計を変える
ここまでの話は、経営法務・経営情報システム・中小企業経営/政策のような、用語と制度を覚える科目を前提にしています。財務・会計や運営管理の計算問題には、そのままは当てはまりません。
違いは何を思い出すかです。用語は「見て、意味が出てくるか」を確かめます。計算は「見て、手が動くか」を確かめます。後者は手続きの記憶なので、カードをめくるのではなく、実際に解かないと確認になりません。財務の問題を眺めて「ああ、これは加重平均資本コストね」と思っても、それは解けることを意味しません。
とはいえ、間隔の理屈そのものは同じです。変わるのは単位だけです。

| 暗記科目 | 計算科目 | |
|---|---|---|
| 1回の単位 | 用語1つ | 問題1問 |
| 1回の時間 | 15秒前後 | 3〜10分 |
| 判定 | 意味が出るか | 完答できるか |
| 間隔 | 上の表と同じ | 上の表と同じ |
| 詰まったときの扱い | Aへ移す | Aへ移す(原因が計算ミスか手順忘れかを分ける) |
計算科目で気をつけていただきたいのは、1回の時間が12〜40倍あるので、Aを増やすと一気に破綻する点です。財務でAが30問あれば、それだけで毎日2時間かかります。
逆に、計算科目には暗記科目にない利点があります。手順が身につくと、間隔を大きく空けても落ちにくい。自転車に近い性質です。一度Bに入った計算問題は、3〜4週間空けても戻ってきます。
8月の本試験から逆算したチェックリスト
最後に、時期ごとの具体的な形にまとめます。

5月頃(本試験まで約3ヶ月)
目的:仕分けの完了と、間隔の初期設定
やりがちな失敗は、いきなり毎日全部回そうとして2週間で燃え尽きることです。5月の負荷は、直前期の半分以下でちょうどいい。
7月頃(本試験まで約1ヶ月)
目的:落ちている論点の発見と、間隔の短縮
この時期に「思ったより落ちている」と気づくのは正常です。むしろ気づかないほうが危ない。5月に完璧に見えていたのは、直前に覚えたものが残っていただけ、という場合が多いからです。
直前1週間
目的:新しいことをしない
いま直前期でこれを読んでいる方へ。この時期に伸びる余地は、新しく覚える論点ではなく、一度覚えて今あやふやになっている論点にしかありません。過去問と問題集で詰まったものだけを科目ごとに1枚に書き出して、それを毎日回してください。7科目あわせて200問程度なら1回50分です。1週間あれば、これは確実に間に合います。
おわりに
要点を3つだけ。

- 2,000項目を1つのかたまりとして扱わない。出題頻度と忘却リスクの2軸で切り分け、回す頻度を変える
- 間隔は、本試験までの期間に応じて変える。5月なら2週間前後、直前2週間なら3〜5日。迷ったら長いほうへ
- 解説を読み返すのではなく、思い出す。3秒待ってから答えを見る。詰まったかどうかが、そのまま仕分けの材料になる
このうち1と2は、やること自体は単純です。単純なのに続かないのは、2,000項目分の「次にいつ会うか」を毎日書き換える作業が人間向きではないからで、能力の問題ではありません。曜日に割り当てて手でやるか、機械に持たせるかは、そこだけを基準に決めてください。
たかぴーさんの過去問データブックは、この記事でいう「出題頻度の軸」をすでに数字にしてくださっているものです。あの一覧を横に置いて、そこに「詰まったかどうか」の印を足していけば、2軸の仕分けはそのまま完成します。
働きながらの独学は、覚える量より、続く形をつくれるかで決まると思っています。皆さんの試験がうまくいきますように。
参考文献
- Ebbinghaus, H. (1885). Über das Gedächtnis: Untersuchungen zur experimentellen Psychologie
- Cepeda, N. J., Vul, E., Rohrer, D., Wixted, J. T., & Pashler, H. (2008). Spacing effects in learning: A temporal ridgeline of optimal retention. Psychological Science, 19(11), 1095–1102.
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.
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