はいどうも、中小企業診断士のたかぴーです。
今回は株式価値の計算方法をテーマに解説していきたいと思います。
そこまで難しいものでもありませんが、いくつかの計算方法が登場しますので、曖昧に覚えていると足元をすくわれやすいです。
図解をしながら分かりやすく解説していきますので、是非最後までご覧いただければと思います。
株式価値 (株主価値) 計算方法の体系
そもそもなぜ株式価値を計算する必要があるのかというと、事業承継やM&Aを行うときに必要となるためです。
上場企業であれば、株価は株式市場での需要と供給によって市場価格として決まるので、その企業の株式総額は分かりやすく試算できますが、中小企業のような非上場企業では、今回学習する計算方法を用いて、株式価値を評価します。
その具体的な方法は、コストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチの3つに分類され、分類ごとに、このように計算方法が枝分かれしています。
今回は、これらの計算方法のうち、マーケットアプローチの株式市価法と類似会社比準法除く全ての計算方法を解説していきたいと思います。
コストアプローチ:純資産額法・修正簿価法
コストアプローチは純資産額を株式価値として採用する方法です。
財務諸表の一つである貸借対照表では、左側が資産、右側が負債と純資産に分かれており、負債は銀行からの借り入れ、純資産は株主の出資金、そして資産は、右側で調達した資金の使い道として分類できるのでしたね。
コストアプローチでは、このBSの数値を使って、資産額から負債額を引いた値が株式価値だと考えます。
単純に純資産額が株式価値だと考えるわけですね。
ここで純資産の考え方が2種類ありますので、中身を確認しておきましょう。
コストアプローチのうち、資産額を簿価で計算する方法を純資産額法、資産を時価で計算する方法を修正簿価法といいます。
修正簿価法は時価純資産法とも呼ぶみたいですね。
資産額を帳簿上の金額で計算するか、時価で計算するかによって名称が異なるという点だけ覚えておくようにしましょう。
コストアプローチは株主が出資した金額がほぼそのまま株式価値だと考えているので、今回学習する計算方法の中では最もシンプルな計算方法といえますね。
インカムアプローチ:収益還元法・DCF法
インカムアプローチは、将来の収益を現在価値に割り戻して株式価値とする計算方法です。
例えば、1年後、2年後にそれぞれ100万円の収益が見込めるとして、割引率を10%と設定すると、この収益を現在価値に割り戻すには、1年後については100万円×$\frac{1}{1+10%}$、2年後は、100万円×$\frac{1}{1+10%}$2をそれぞれ掛けてから足し合わせることで、現在価値を計算できます。
もし仮に100万円の収益がn年後まで続くとしたら、現在価値は100万円×$\frac{1}{1+10%}$nになるまで、各年の収益を割引率を用いて現在価値に割り戻すのでしたね。
この辺りがよくわからないという方は、過去記事で現在価値の計算方法を解説していますので、そちらを確認してみてください。
インカムアプローチでは収益が永続する際の現在価値を株式価値として評価しますので、この計算過程を念のため確認しておきましょう。
収益が永続するときの現在価値の求め方は、先ほど確認した通り100万円×$\frac{1}{1+10%}$が、1乗・2乗・3乗…と、どんどん増えていくのでしたね。
これを計算するために、こちらの両辺に$\frac{1}{1+10%}$を掛けてた式を考えたいと思います。
左辺は現在価値×1+10%分の1となって、右辺は第一項が100万円×$\frac{1}{1+10%}$2から始まるので、ちょうど①の式が右方向に1個ずつずれたような計算式になりますね。
ですので、①の式から②を式を差し引くことで、青で塗りつぶした部分がすべて相殺されるはずです。
実際に計算してみましょう。
まず左辺については、①の現在価値ー②の現在価値×$\frac{1}{1+10%}$となり、右辺に関しては①の計算式の第一項である100万円×$\frac{1}{1+10%}$だけが残ります。
厳密には、100万円×$\frac{1}{1+10%}$n+1というものも残るのですが、今は収益が永続することから、nを無限大として考えているので、この値は限りなくゼロに近い値となります。
ですので、この以下のグレー部分は無視して計算を行います。
ここで両辺に1+10%を掛け合わせると、左辺は現在価値×(1+10%) – 現在価値、右辺は100万円となります。
そして、左辺を計算すると、現在価値×10%=100%となり、両辺を10%で割り返すと、現在価値は10%分の100万円となりますね。
つまり、収益が永続するときの現在価値の計算式は、毎年の収益を期待収益率で割り返せばよいということが、この計算結果から読み取れます。
以上を前提に、インカムアプローチの計算方法を確認してみましょう。
改めてインカムアプローチでは、将来の収益を現在価値に割り戻して株式価値の計算を行うのでした。
インカムアプローチのうち、収益還元法では、株式価値は当期純利益を期待収益率で割り返して求めます。
当期純利益が永続すると考えて、期待収益率で割り返すことで現在価値にして、株主価値とみなすわけですね。
ちなみに、このときの期待収益率は、国債利子率やROEの業界平均などが用いられるようです。
また、もう一つの計算方法であるDCF法は、株式価値を配当金を株主資本コストで割り返して計算します。
今度は株主の収益である配当金が永続すると考えて、割引率は株主資本コストを利用するわけですね。
このとき、株主資本コストはCAPMで計算を行うことが多いようです。
ちなみに、企業価値の計算方法でDCF法が出てきましたが、そのときは企業価値はFCFをWACCで割り返して計算しました。
株式価値を計算するのか、企業価値を計算するのかで、使用する値が異なるという点だけ、ご注意いただければと思います。
ちなみに、収益還元法で利用されるROEや、CAPMの計算方法、それからDCF法を用いた企業価値計算方法についても、過去の記事で解説していますので、この辺りが不安だという方は、ぜひ過去の記事をチェックしてみてください。
マーケットアプローチ:マルチプル法
最後にマーケットアプローチです。
マーケットアプローチでは、マルチプル法が頻出論点ですので、こちらの内容を解説したいと思います。
マルチプル法は類似企業の株式市場での相場を参考に株式価値を算出する方法です。
例えば自社の株式価値を算出するにあたって、食品メーカーであればハウス食品、ホテル業界であれば帝国ホテル、ドラッグストアであればマツキヨココカラなどといった上場企業のPERやPBRなどを計算し、その計算結果を用いて株主価値を算出するわけですね。
例えばPERを用いて、株式価値を算出する方法を確認してみましょう。
PERは、株価÷1株あたり当期純利益で計算できるのでしたね。
この式を変形すると、株価はPER×1株あたりの当期純利益で表すことができます。
このとき、PERは左で参照した類似企業の値を使用して、1株あたりの当期純利益は自社の値を利用すれば、自社の株式価値が算出できるというわけですね。
このようにマルチプル法では、自社のPERやPBRが、上場企業と同じであることを前提に株式価値を算出します。
参照している企業の業種・業態がほとんど同じであれば、ある程度正確な株主価値を算出できますが、上場企業と中小企業では企業規模が異なるケースがほとんどのため、この方法を使用するときは、その点に留意する必要がありそうですね。
ちなみにPER・PBRともに過去の記事で覚え方も含めて解説していますので、こちらも興味があればチェックしてみてください。
過去問を解いてみよう (令和3年度 第22問)
それでは、ここまでの内容を、過去問を解いて復習してみたいと思います。
企業価値評価に関する以下の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
企業価値評価の代表的な方法には、将来のフリー・キャッシュフローを「A」で割り引いた現在価値(事業価値)をベースに企業価値を算出する方法である「B」法や、会計利益を割り引いた現在価値をベースとして算出する収益還元法がある。
これらとは異なるアプローチとして、類似の企業の評価尺度を利用して評価対象企業を相対的に評価する方法がある。利用される評価尺度は「C」と総称され、例としては株価と1 株当たり純利益の相対的な比率を示す「D」や、株価と1株当たり純資産の相対的な比率を示す「E」がある。(設問1 )空欄AとBに入る語句は?
中小企業診断試験 財務・会計 令和3年度 第22問
ア A:加重平均資本コスト B:DCF
イ A:加重平均資本コスト B:IRR
ウ A:自己資本コスト B:DCF
エ A:自己資本コスト B:IRR
(設問2 )空欄C~Eに入る語句は?
ア C:ファンダメンタル D:EPS E:BPS
イ C:ファンダメンタル D:PER E:PBR
ウ C:マルチプル D:EPS E:BPS
エ C:マルチプル D:PER E:PBR
企業価値評価に関する穴埋め問題ですね。
✅設問1
企業価値評価方法の代表的な方法としてフリーキャッシュフローを現在価値に割り引く算出方法とありますが、企業価値をFCFを用いて算出する際は、加重平均資本コストで割り引く必要があり、そのような算出方法はDCF法と呼ぶのでしたね。
ですので、選択肢アがこの問題の正解となります。
ちなみにIRRは内部収益率のことで、投資評価指標の1つなのでしたね。
内容を忘れてしまったという方は、過去記事をチェックしてみてください。
✅設問2
類似企業の評価尺度を利用して、対象企業を評価する方法はマルチプル法と呼ばれており、株価を1株あたり純利益で割り返して求めるものをPER、株価を1株あたり純資産で割り返して求めるものをPBRと呼ぶので、選択肢エがこの問題の正解となりますね。
ちなみにEPSは1株あたり当期純利益、BPSは1株あたり純資産額のことで、純利益や純資産額を株式発行総数で割り返すことで求めます。
余裕ある方は覚えていただければと覚えていただければと思います。
以上のように、この論点は用語の意味さえ理解していれば、簡単に解ける問題が出題される傾向にあります。
この2つの設問だけで8点もらえるので美味しいですよね。
逆に、この論点を全く理解していないと8点失ってしまうことになりますので、それだけで本試験突破がかなり厳しくなります。
この機会に、確実に内容を押さえておきましょう。
まとめ
それは最後にまとめです。
今回学習した株式価値評価は、事業承継やM&A実行時に必要となる考え方なのでしたね。
計算方法はいくつかあり、確実に押さえていただきたいのは、コストアプローチに関しては財産、つまりBSに注目して算出する方法で、インカムアプローチは収益、つまりPLに注目して算出する方法なのでした。
インカムという言葉から収益を連想できると、思い出しやすいかと思います。
最後にマーケットアプローチについては、市場相場・競合の指標に注目して計算する方法なのでした。
マーケットは市場という意味の言葉ですので、この言葉からも連想しやすいですね。
具体的な計算方法については、最低でも用語からざっくりとした算出方法をイメージできるようにしていただければと思います。
はい、というわけで、今回は株式価値の計算方法をテーマに解説してみました。
ご覧いただいたように、これまで学習した各種論点がふんだんに盛り込まれた内容となっています。
分からないものはそのままにせず、早めに確認いただければと思います。
基礎さえ理解できていれば難しいものではありませんので、ぜひ得意論点にしてくださいね。