はいどうも、中小企業診断士のたかぴーです。
今回は寡占市場と屈折需要曲線をテーマに解説していきたいと思います。
市販のテキストで屈折需要曲線のグラフを見て、その形の歪さから理解するのを諦めてしまう方も多いのではないでしょうか?
ここまで学習してきた内容さえしっかりと押さえていれば、そう難しくない論点ですので、ぜひこの動画で一緒に学習して、得意論点にしていただければと思います。
独占企業の限界収入曲線
まずは前回の学習した、市場独占時の限界収入曲線の特徴を復習しておきましょう。
限界収入とは、生産量を1つ増加させたときに増加する収入額のことでした。
横軸に需要量・縦軸に価格を取ったグラフで、需要曲線を描いてみます。
このとき、生産量に応じた収入の増加額は、3個から4個に増えると+150円、4個から5個に増えると+100円となっているとしましょう。
これをグラフに反映させると、限界収入曲線は上図のようなオレンジの直線で表されます。
この限界収入曲線の傾きは、需要曲線のちょうど2倍になるという特徴があるのでしたね。
この傾きが2倍になるという知識はこの後でも使いますので、よく覚えておいてください。
独占時の消費者余剰と生産者余剰、そして死荷重についてもっと詳しく知りたいという方は、概要欄にある前回の記事をご覧いただければと思います。
寡占市場の屈折需要曲線
それでは今日の本題の、寡占市場における需要曲線を確認してみましょう。
寡占市場とは、価格に対して支配力のある売り手が数社しか市場に存在しない状態のことを言います。
独占の場合は1社だけでしたが、寡占状態では複数社あるということですね。
結論から言うと、寡占状態時の需要曲線と限界収入曲線は以下のような形となります。
需要曲線は途中で傾きが変わっていますし、限界収入曲線は2本の直線に分離しています。
テキストでこのグラフを見て、理解するのを諦めてた方も多いのではないでしょうか。
なぜこのような形となるのか、順を追って説明したいと思います。
まず、市場には1~5番の顧客がいて、A社・B社の2社だけがリンゴを供給しているケースを考えてみたいと思います。
A社・B社ともにリンゴを1個125円で販売していたとしましょう。
このとき、1番と2番はA社から、3番と4番はB社からリンゴを購入しました。
ちなみに、5番はリンゴが高いと感じたため、購入していません。
これをグラフで表すと、上図の左のグラフのようになります。
それではA社が価格を125円から100円に値下げしたら、どうなるでしょうか?
B社はこのままでは、自社の顧客がA社に流れてしまうので、この価格に追従する形で、100円に値下げします。
結果として、1番と2番はA社から購入し、価格が下がったので5番までB社から購入することになりました。
需要量は合計5個になるわけですね。
グラフで表すと、上図の左のようなグラフとなります。
ですので、需要曲線は上図左側のグラフのように描けるはずですね。
ですが実際には、このような直線にはならないというわけです。
これを確認するために、今度はA社が125円から150円に値上げしたケースを考えてみましょう。
A社が値上げしたのですが、B社はもともと125円で売っていましたし、特に顧客が取られるわけではないので、そのまま125円で売り続けることになります。
そうすると、A社の大ファンだった1番はそのままA社で購入を続けますが、特にこだわりもない2番は価格が安いB社で購入することになります。
もともとB社の顧客もB社で購入しますので、結果的に価格が150円における需要量は1個だけとなります。
この内容をグラフで確認してみましょう。
B社に顧客が流出することで、想定以上に需要量が小さくなり、1個しか販売することができないため、価格が125円以上のときの需要曲線は、さらに傾きが小さくなります。
このような需要曲線のことを、屈折需要曲線と呼びます。
続いて、限界収入曲線について考えてみましょう。
冒頭で確認した通り、限界需要曲線の傾きは、需要曲線の2倍なのでしたね。
ですので、価格が125円以上の場合の限界収入曲線は、このようなオレンジの点線のようになりますし、125円以下の場合は、さらに傾きが大きな直線として表すことができます。
どちらの限界収入を採用するのかは、ちょうど需要量が4個を境に変わりますので、需要量が4個までは細いオレンジの実線、4個以上は太いオレンジの実線が限界収入曲線となります。
結果的に、限界収入曲線は上図のような2つに分離された直線になるわけですね。
寡占市場における需要曲線・限界収入曲線の導出プロセスは以上の通りですが、試験対策上はグラフの読み取りが重要です。
供給曲線のシフトと需要量・価格の関係
それでは試験対策で重要な、供給曲線のシフトと、需要量・価格の関係を確認していきましょう。
独占状態の時もそうでしたが、企業は限界収入と限界費用が等しくなる生産量と価格を採用します。
先ほどの屈折曲線に供給曲線を描いてみましょう。
このときの価格はいくらになるでしょうか?
利潤最大化条件から、生産量は限界収入曲線と限界費用曲線の交点である4個となりますね。
独占の時もそうでしたが、このときの価格は、限界収入曲線との交点で決まるわけではないのがポイントとなります。
生産した4個を全て売るには、需要曲線との交点である125円で販売すれば良いのでした。
こうすることで、企業側は最大限の利益を享受することができます。
ここで、生産コストが下がることで、供給曲線が右方向にシフトしたことを考えてみましょう。
このとき、限界収入曲線との交点は、依然として生産量4個であることが読み取れます。
当然、生産量4個のときの価格は変わらず125円となりますね。
通常、供給曲線がシフトすると、それに合わせて数量と価格が変化しますが、このように寡占市場では、限界収入曲線が乖離している範囲で供給曲線がシフトしても、価格・数量ともに変わらないことがわかります。
このグラフの読み取りさえ理解できれば、本試験は怖いものなしとなります。
過去問を解いてみよう (平成28年度 第23問)
それではここまでの内容を、過去問を解いて復習してみましょう。
下図では、利潤最大化を目指す合理的な企業が直面する寡占市場を念頭において、点Eで屈折する「屈折需要曲線」DEF が描かれている。この需要曲線のDE部分に対応する限界収入曲線が線分LM、EF部分に対応する限界収入曲線が線分RSである。いま、当該市場でq1の生産量を選択していた企業の限界費用曲線MC1がMC2 へシフトしたものとする。下図に関する記述として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
ア 限界費用曲線がMC2へシフトしたことにより生産量をq1からq2へ増加させる。
イ 限界費用曲線がMC2へシフトしたことにより生産量をq1からq3へ増加させる。
ウ 限界費用曲線がMC2へシフトしても、価格は変わらない。
エ 限界費用曲線がMC2へシフトすると、価格をp1からp2 へ引き下げる。
中小企業診断士試験 経済学・経済政策 平成28年度 第23問
屈折需要曲線における限界費用曲線シフトに関する問題ですね。
問題文を読むと、限界費用曲線がMC1からMC2にシフトしたと記載されています。
設問文では、このときの生産量と価格の変化について問われていますね。
先ほど解説した通り、限界収入曲線が乖離している範囲では、いくら供給曲線=限界費用曲線がシフトしたとしても、生産量・価格ともに変化はないのでした。
ですので、選択肢ウがこの問題の正解となりますね。
ちなみに、生産量はq1で、価格は点Eでの価格となります。
このように、屈折需要曲線の問題は、理論の内容さえ理解していれば、簡単に解ける問題が出題されます。
理解が難しいためか、この問題でさえ正答率が低かったようですが、この動画をご覧の皆さんにはぜひ正答していただきたいですね。
まとめ
それでは最後にまとめです。
今回の論点では、限界収入曲線が乖離している範囲内で限界費用曲線がシフトしても、生産量・価格ともに変わらないという結論だけはしっかり覚えていただければと思います。
寡占市場においては基準価格より価格を下げると、競合も追随して価格を下げ、価格を上げると追随してこないことから、このような屈折需要曲線が描けるのでした。
限界収入曲線は需要曲線の傾きの2倍になるので、結果としてこのように2つに分離してしまうのでしたね。
そして、限界収入曲線が乖離した範囲で限界費用曲線がシフトしたとしても、数量・価格ともに変化しないのでした。
この流れは、ご自身で一度グラフを描いてみると、さらに理解が深まるかと思いますので、ぜひ挑戦しみてください。
はい、というわけで、今回は寡占市場と屈折需要曲線をテーマに解説してみました。
順を追って一つ一つ理解すれば、そこまで難しいものでもないことがわかるかと思います。
試験対策上はグラフの導出過程よりも、結論とグラフの読み取りが重要ですので、過去問を解きながら理解を深めてみてください。