はいどうも、中小企業診断士のたかぴーです。
今回は「均衡国民所得」をテーマに解説していこうと思います。
国民所得の決まり方は、マクロ経済学の基礎的な論点のひとつですが、ここが分かっていないと、この後に続く論点の理解が進みません。
この記事を見ていただければ、総需要・総供給曲線が意味する内容も理解できると思いますので、ぜひ最後までご視聴ください!
三面等価の原則
まずは三面等価の原則です。
三面等価の原則とは、生産面、支出面、分配面のGDPが等しくなるという考え方です。
前回の記事で、GDPは国内で生産された付加価値の合計という話をしましたが、この生産活動によって得られた利益は労働者に給料として分配されますね。
また、労働者も受け取った給料を元手に企業が生み出す製品やサービスを利用します。
このような生産・分配・支出の3つの金額は、事後的に等しくなるというのが三面等価の原則と言われていますね。
細かく言うと、ここで言う分配には、従業員への給料の他に企業の利益や固定資本減耗なども含まれ、支出には民間の支出だけではなく政府支出なども含まれたりします。
ここでは、生産・分配・支出のそれぞれが等しくなるということだけ、ざっくりと理解していただければと思います。

総供給曲線とは?
続いて総供給曲線です。
総供給とは、国全体の財・サービス供給量の総額のことをいいます。
例えば、横軸に国民所得、縦軸に総供給を取ると、総供給曲線は以下のような青色の直線で描くことができますね。

この時、国民所得が1であれば総供給は1、国民所得が3であれば総供給も3となり、常に国民所得と総供給は等しくなります。
これは先ほど解説した三面等価の原則によるものですね。
分配面の国民所得と生産面の総供給は常に等しくなるため、国民所得と総供給は常に一致すると考えられます。
総需要曲線とは?
続いて総需要曲線です。
総需要とは国全体の財・サービス需要量の総額のことですね。
総需要の計算式としては次のようになります。
総需要=消費額(C)+投資額(I)+政府支出額(G)
総需要は、消費額と投資額、政府支出額の合計となるわけですね。
なお、今回は閉鎖経済を前提にしています。
そうでない場合は、この計算式で輸出量と輸入量を加味しますので、頭の片隅に置いておいてください。
ここで、前回の動画で解説した通り、消費は限界消費性向と所得、税金、独立消費によって、以下のように表されるのでした。
今期消費=限界消費性向c×(所得Y-税金T)+独立消費C0
総需要の計算式をよく見ると、総需要は消費に投資額と政府支出額を足し合わせただけですので、この消費関数の計算式に当てはめると、総需要の計算式はこのように表されます。
総需要=限界消費性向c×(所得Y-税金T)+独立消費C0+投資額(I)+政府支出額(G)
つまり、総需要は消費関数の計算式に投資額と政府支出額の2つを足し合わせたものと言えますね。
それでは総需要曲線をグラフで表してみましょう。
先ほどと同じように横軸に国民所得を取り、今度は縦軸に総需要を取ると、総需要曲線は以下のように表されます。

前回学習した通り、消費関数のグラフはこのように表され、傾きは全く一緒となりますね。
総需要曲線は消費関数のグラフより、ちょうど I + G、つまり投資額と政府支出の金額分だけ上方向にスライドしたようなグラフとなります。
均衡国民所得とは?
ここまでの内容がわかると、均衡国民所得についても理解できるようになります。
均衡国民所得とは、総供給と総需要が一致するときの国民所得のことを言います。
先ほどのように横軸に国民所得を取り、縦軸に総供給と総需要を取ると、総需要曲線と総供給曲線はそれぞれ以下のように表されます。
均衡国民所得は、この需要と供給が一致するときの所得ですので、ちょうど総需要と総供給の交点となりますね。
ここまではそれほど難しくないかと思います。
厄介なのは、均衡国民所得の計算式が絡んだ時ですね。
均衡国民所得は総供給と総需要が等しくなるときの所得のことを表すのでした。
総供給は国民所得 Y で表され、総需要は消費関数の計算式に投資額と政府支出額を足し合わせたものとなるのでしたね。
この計算式から均衡国民所得となる Y を導いてみましょう。

以上が均衡国民所得を計算するための計算式となるわけですね。
この計算式そのものを暗記しようとするのは非常に難しいので、あくまで総供給と総需要が一致するときの均衡国民所得だということを覚えて、ここまでの計算式の変形をご自身でできるようになった方が、試験対策上、問題に対応しやすくなるかと思います。
超過需要と超過供給
最後に、超過需要と超過供給について説明します。
先ほど説明した通り、総需要曲線と総供給曲線はこのように表され、均衡国民所得はちょうど2つのグラフが交わった部分なのでしたね。

ここで今、国民所得が均衡国民所得ではなく、それより低い 200 兆円で決まっていたとしましょう。
この時、総供給は 200 兆円ですが、総需要は 300 兆円だったとします。
そうすると、金額ベースで供給よりも需要の方が多く、超過需要の状態になります。
この場合、生産者側は供給を増やして均衡国民所得に近づくように生産すると言われています。
逆に、国民所得が 600 兆円だった時は、総需要は 500 兆円、総供給は 600 兆円となります。
こうなると、金額ベースで需要より供給の方が多いので、この時は超過供給と言います。
超過供給が発生すると、生産者側は供給量を抑える動きをし、均衡国民所得に近づくような力が働くとされています。
このあたりは、グラフをしっかりと読み取れば問題ないかと思いますので、しっかりと考え方を理解しておきましょう。
過去問を解いてみよう (平成22年度 第5問)
それでは、ここまでの内容を、過去問を解いて復習してみましょう。
いま、家計、企業、政府から構成される閉鎖経済モデルを考える。ここで、各記号は、Y:GDP、C:消費支出、I:民間投資支出、G:政府支出、T:租税収入、C₀:独立消費を意味し、単位は兆円とする。また、c は限界消費性向とする。
生産物市場の均衡条件 Y=C+I+G
消費関数 C=C0 +c(Y−T) C₀ = 60、c = 0.6
民間投資支出 I = 120 政府支出 G = 50 租税収入 T = 50
ここから得られる結果として、最も適切なものの組み合わせを、下記の解答群から選べ。a 均衡GDPは500兆円である。
b 均衡時における消費は330兆円、貯蓄は170兆円である。
c 均衡予算を編成した上で政府支出を5兆円増加させた場合、均衡GDPは5兆円増加する。
d 減税を5兆円規模で実施した場合、均衡GDPは12.5兆円増加する。[解答群]
ア a と b イ a と c ウ a と d エ b と c オ b と d
均衡国民所得に関する問題ですね。
生産物市場の均衡条件や消費関数の計算式が与えられており、各項目に具体的な数字が示されています。
選択肢を一つ一つ見ていきましょう。
✅選択肢a
均衡GDPとは均衡国民所得のことですね。
実際に計算式を用いながら値を求めてみたいと思います。
均衡国民所得は、総供給Yが総需要と等しくなる時の国民所得でしたね。
計算式に設問文にある数値を当てはめると以下のように表されます。
Y=C0+c(Y-T)+I+G
Y=60+0.6×(Y-50)+120+50
Y=60+0.6Y-30+120+50
Y-0.6Y=200
0.4Y=200
Y=500
したがって、均衡GDPは500兆円とする選択肢aは正しい記述となります。
✅選択肢b
消費と貯蓄に関する内容ですから、消費関数を用いて計算すればよさそうですね。
先ほど、均衡GDPは500兆円と求められたので、設問文の数字を使いながら値を当てはめてみると、以下のように表されます。
C=C0+c(Y-T)
C=60+0.6×(500-50)
C=330
計算すると消費額は330兆円となりますね。
均衡国民所得は500兆円、消費は330兆円、税金は50兆円ですので、これらの値を用いると、貯蓄は所得から消費と税金を差し引いた金額で求めることができそうですね。
計算すると貯蓄額は120兆円と求められます。
貯蓄額は単に所得から消費を差し引くだけではなく、税金も考慮しなければならないという点に注意しましょう。
もし税金を差し引かなかったら、貯蓄額は170兆円となってしまいます。
✅選択肢c
また均衡GDPを求める問題ですので、以下の計算式に当てはめるということになりますね。
ここで注意しなければいけないのが「均衡予算を編成した上で」とある点です。
均衡予算とは、政府支出と租税収入が一致していることを指しています。
つまり、政府支出を5兆円増加させたのなら、収入である租税収入も5兆円増加させる必要があります。
計算式の中で租税収入は55兆円、政府支出も同じく55兆円として、均衡国民所得を求める必要があります。
Y=C0+c(Y-T)+I+G
Y=60+0.6×(Y-55)+120+55
Y=60+0.6Y-33+120+55
Y-0.6Y=202
0.4Y=202
Y=505
計算すると国民所得は505兆円となります。
もともと500兆円だったGDPが505兆円に増えていますので、この選択肢cは正しいとなりますね。
✅選択肢d
今度は均衡予算を編成していないため、租税収入だけが45兆円に減少したとして計算を行います。
Y=C0+c(Y-T)+I+G
Y=60+0.6×(Y-45)+120+50
Y=60+0.6Y-27+120+50
Y-0.6Y=203
0.4Y=203
Y=507.5
計算してみると、均衡GDPである国民所得は507.5兆円となります。
500兆円だった均衡GDPが507.5兆円になっていますので、「12.5兆円増加する」としている選択肢dは誤りとなりますね。
以上から、選択肢aとcが正しい記述となりますので、選択肢イがこの問題の正解となります。
それぞれの選択肢が何を表しているか正しく理解して、数値を当てはめながら計算できれば、問題なく正解できた問題だったかと思います。
選択肢bとcで悩まれた方が多いかと思いますので、間違えてしまった方はよく復習しておきましょう。
まとめ
それでは最後にまとめです。
今回学習した均衡国民所得とは、総需要と総供給が一致するときの国民所得のことでした。
総供給曲線と総需要曲線をグラフで表すと以下のように示され、均衡国民所得はそれぞれのグラフが交差するときの国民所得でしたね。

均衡国民所得の計算式は、総供給と総需要が一致するときの国民所得と考えられますので、総供給は三面等価の原則から国民所得Yと等しくなり、総需要は消費関数の計算式に投資額と政府支出を足し合わせた金額となるのでした。
これを変形するとやや複雑な計算式になりますが、計算式自体を覚えるのではなく、導出過程をきちんと理解して自分で導けるようになっておきましょう。
はい、というわけで、今回は均衡国民所得について解説しました。
今回学習した内容だけで問われることは少ないですが、この後に続く政府支出乗数や投資乗数などの論点、それからIS-LM分析を行う際にも、今回の論点が理解できているかどうかが非常に重要になってきます。
今回の動画だけで理解できなかった方は、前回までの記事でGDPや消費関数についても解説していますので、この辺がまだ曖昧な方は、ぜひこの機会に動画を見返してみていただければと思います。
