はいどうも、中小企業診断士のたかぴーです。
今回は配当割引モデルをテーマに解説したいと思います。
配当割引モデルは株式価格の計算方法のひとつです。
前回は債券価格の計算方法を説明しましたが、今回は株価の計算方法というわけですね。
今回解説する考え方は、二次試験でも問われたことがありますので、ぜひこの機会にマスターいただければと思います。
株式の期待収益率
まずは株式の期待収益率から確認していきます。
株式の期待収益率とは、投資額に対する儲けた割合のことを言います。
例えば、100万円を投資したら、1年後に配当金が1万円もらえ、さらに株価は109万円になる株式があったとしましょう。

このときの期待収益率を計算してみると、分母は投資額の100万円となります。
期待収益率では、投資額に対してどれだけ儲けることができたかを確認したいので、分子側は配当金に加えて、1年後の株価と投資額の差分となるわけですね。
整理すると、投資額に対する、配当金と値上がり益の合計となります。
計算すると10%となりますね。
ですので、この投資案件は、投資額に対して年10%の収益が見込めると見なせるわけです。
単に投資した金額に対してどれだけ儲けられたかを計算しているだけですので、そこまで難しい話ではないですね。
配当割引モデル
それでは本題の配当割引モデルです。
配当割引モデルでは、株式の理論価格は、将来の配当金をその株式の期待収益率で割り引いた現在価値だと考えます。
そして、配当金の考え方には、ゼロ成長モデルと定率成長モデルの2つがあります。

ゼロ成長モデルでは、配当金は毎年一定だと考えます。
毎年1株あたり1万円の配当金がもらえて、この金額は将来にわたって一定と考えるわけですね。
一方、定率成長モデルでは、配当金は一定の成長率で増加すると考えます。
例えば今年の配当金は1万円、来年は1.1万円と10%ずつ増加するイメージですね。
配当金が増えていくか、一定なのかの違いはありますが、いずれにしても配当割引モデルでは、この配当金の現在価値が、株式の理論価格であると考えるわけですね。
ですので、株式価格を計算するには、まず現在価値の考え方を理解しておく必要があります。
そこで、簡単に現在価値について説明したいと思います。
現在価値とは?
現在価値とは、将来もらえるお金を現時点の価値に計算し直した金額のことを言います。
例えば、1年後、2年後にそれぞれ100万円の収益が見込めるとして、割引率を10%と設定すると、この収益を現在価値に割り戻すには、1年後については100万円×$\frac{1}{1+10%}$、2年後は、100万円×$\frac{1}{1+10%}$2をそれぞれ掛けてから足し合わせることで、現在価値を計算できます。

もし仮に100万円の収益がn年後まで続くとしたら、現在価値は100万円×$\frac{1}{1+10%}$nになるまで、各年の収益を割引率を用いて現在価値に割り戻すのでしたね。
この辺りがよくわからないという方は、過去記事で現在価値の計算方法を解説していますので、そちらを確認してみてください。

ゼロ成長モデルの株価計算方法
それではゼロ成長モデルの場合の株価を具体的に求めてみましょう。
今、毎年1株あたり1万円の配当金がもらえ、期待収益率が5%の株式があったとします。
結論から言うと、この時の理論株価は配当金を期待収益率で割り返した値となります。
理論株価=$\frac{翌年の配当金}{期待収益率}$
順を追って説明したいと思います。
まず、この株式の例を図で表してみると、1年後からn年後まで、青色で表した配当金1万円が受け取れるというわけですね。

配当割引モデルでは、この将来にわたって受け取れる配当金の現在価値が、理論株価と考えるわけです。
先ほど説明した通り、この現在価値は、1年後の1万円に$\frac{1}{1+5%}$をかけて、2年後の1万円には割引率1+$\frac{1}{1+5%}$2をかけて、といったように各配当金の値を足し上げていきます。
最終的には、n乗の値まで計算する必要があるわけですね。
この計算方法について、詳しく確認したいと思います。
nを含む計算式の処理
先ほど確認した通り、配当金の現在価値の計算式は、1万円×$\frac{1}{1+5%}$が、1乗・2乗・3乗…と、どんどん増えていくのでした。
これを計算するために、こちらの両辺に$\frac{1}{1+5%}$を掛けてた式を考えたいと思います。

左辺は現在価値×$\frac{1}{1+5%}$となって、右辺は第一項が1万円×$\frac{1}{1+5%}$2から始まるので、ちょうど①の式が右方向に一個ずつずれたような計算式になりますね。
ですので、①の式から②を式を差し引くことで、青で塗りつぶした部分がすべて相殺されるはずです。
左辺については、①の現在価値ー②の現在価値×$\frac{1}{1+5%}$となり、右辺に関しては①の計算式の第一項である1万円×$\frac{1}{1+5%}$だけが残ります。

厳密には、1万円×$\frac{1}{1+5%}$n+1というものも残るのですが、今は配当金が永続することから、nを無限大として考えているので、この値は限りなくゼロに近い値となります。
ですので、このグレー部分は無視して計算を行います。
グレー部分を無視することで、nが含まれない計算式となりましたので、現在価値を求めることができそうですね。
あとはこれを計算するだけです。

最終的に、5%×α=1万円とシンプルな式になりました。
両辺を5%で割り返すと、α=$\frac{1万円}{5%}$となりますね。
つまり、αで置いた配当金の現在価値の計算式は、1年後の配当金を期待収益率で割り返せばよいということが、この計算結果から読み取れます。
計算過程は以上の通りですが、ここでは結論だけ覚えれば良いです。
株式の理論価格は、1年後の配当金÷期待収益率であるということを覚えておきましょう。
定率成長モデルの株価計算方法
続いて定率成長モデルの株価計算方法も確認してみましょう。
今度は、1万円の配当金が4%ずつ成長するケースを考えてみます。
ここでも結論から言うと、理論株価は、翌年の配当金を期待収益率と配当金成長率の差分で割り返した値となります。
理論株価=$\frac{翌年の配当金}{期待収益率ー配当金成長率}$
まず、この株式の収益を図で表してみると、1年後の配当金は1万円、その翌年は4%増え、n年後には1万円×1.04n-1乗まで増えることになりますね。

先ほどより、さらに複雑な計算式ですね。
ただし、計算自体は、先ほどと比べてそこまで大きく変わりません。
nを含む計算式の処理
先ほどは両辺の分母に1+5%を掛けましたが、今度は分子側も1.04を掛けてみます。
そうすると、右辺の第一項は1.04万円×$\frac{1}{1+5%}$2から始まるので、ちょうど①の式が右方向に一個ずつずれたような計算式になりますね。

これで、①の式から②を式を差し引くことで、青で塗りつぶした部分がすべて相殺できそうです。
実際に計算式で表してみると、以下のようになります。
グレーの部分はほぼ0になるので、今回も無視して良さそうです。

あとは計算するだけですね。

配当金の現在価値をαと置いて計算すると、最終的には、α=$\frac{1}{5%ー4%}$となりました。
5%は期待収益率で、4%は配当金の成長率でしたね。
ですので、定率成長モデルの理論価格は、1年後の配当金を期待収益率と成長率の差分で割り返して求めるということになります。
こちらも計算過程を覚えるというよりは、結論だけ押さえるようにしていただければと思います。
ちなみに、今回のような計算をする考え方は、MM理論や株式価値の計算方法の動画でも紹介しました。
この機会に合わせてご覧いただくと、ご理解いただきやすいかと思います。

過去問を解いてみよう (平成30年度 第13問)
それではここまでの内容を、過去問を解いて復習してみましょう。
当社の前期末の株当たり配当金は120円であり、今後毎年2%の定率成長が期待されている。
資本コストを6%とすると、この株式の理論価格として、最も適切なものはどれか。
ア 2,400円イ 3,000円
ウ 3,060円
エ 3,180円
定率成長モデルの株価を求める問題ですね。
設問文を図で表してみると、このようになります。
前期末は120円、その後2%のペースで増えるとのことなので、今期末の配当金は120×1.02である点がポイントですね。
ここで、定率配当モデルの理論価格は、1年後の配当金を期待収益率と成長率の差分で割り返して求めるのでした。
あとはこの計算式に数値を当てはめるだけですね。

理論価格は、120×1.02を6%と2%の差分で割り返します。
計算すると、3,060円と求まりました。
ですので、選択肢ウがこの問題の正解となりますね。
ちなみに、1年後の配当金を120円としてしまうと、計算式は合っていても株価は3,000円と求まってしまいます。
間違えてしまった方は、次回以降気をつけましょう。
1年後の株価だけ気を付ければ、計算式に当てはめるだけですので、そう難しいものではありませんね。
まとめ
それでは最後にまとめです。
今回学習した配当割引モデルでは、株式の理論価格は、将来の配当金を期待収益率で割り引いた現在価値だと考えます。
ゼロ成長モデルでは、1年後の配当金を期待収益率で割り返し、定率成長モデルでは、期待収益率と成長率の差分で割り返せば良いのでしたね。

2つも計算式を覚えたくないという方は、定率成長モデルの計算式だけ覚えるようにしてください。
万が一、ゼロ成長モデルを問われたとしても、定率成長モデルの計算式で、成長率0%として計算すれば、答えは同じとなるはずです。
診断士試験は覚えることがたくさんありますので、できるだけ暗記負荷が少なくなるようにしたいですね。
はい、というわけで、今回は配当割引モデルをテーマに解説してみました。
考え方を理解するために、途中の計算過程を詳しく解説しましたが、結論として覚えていただきたい内容は、定率モデルの計算式だけです。
出題されたら確実に得点したい論点ですので、過去問を解きながら、理解を深めていただければと思います。