前回の記事
クリステンセンの破壊的イノベーションの意味を理解する
で解説したように、破壊的イノベーションは製品・サービスの価値要素を低下させる変わりに、
他の価値要素を向上させるタイプのイノベーションです。
イノベーションジレンマの著者クレイトン・クリステンセンは、
破壊的イノベーションが原因で、大企業は築き上げた業界の地位を失うと述べています。
なぜ大企業は破壊的イノベーションへの対応に失敗してしまうのでしょうか。
今回はその理由を探っていきましょう。
大企業が業界の地位を失う瞬間
デジタルカメラにとっての携帯電話のカメラ機能は、取るにならない性能であったはずだ。
しかし、携帯電話は通話機能やメール機能など、様々な機能を備えた製品として拡大していったよね。
携帯電話にカメラ機能が付いたのは1999年からなんだけど、その時の画質なんてデジタルカメラと比較すると、
まさにおもちゃのようなものだったんだ。

参考1:平賀督基「画素数競争とケータイカメラの進化」
参考2:コンパクトデジカメ高画素化競争の終焉
これを見て何か気づくことはあるかな?
でも、2010年の頃にはデジタルカメラとほとんど変わらないくらいになっています!
単純に画素数の大きさ=画像のキレイさというわけではないけれど、2010年時点で人間の目ではデジタルカメラと携帯電話の画像のキレイさの違いがわからないほどになっているんだ。
確かに2010年の頃にはケータイにカメラが付いているのは当たり前だったように思います。
まぁ値段にもよりますが、携帯電話で十分と思う人が多いと思います!
でも実際に数字で見るとその様子がよく分かると思うよ。
このグラフを見て欲しいんだ。

※一般社団法人カメラ映像機器工業会の統計データをもとに管理人が作成
これを見てわかることは何かな?
デジタルカメラが爆発的に普及していったことがわかります。
でも、2010年をピークに出荷台数が右肩下がりですね。
これだけでデジタルカメラ市場縮小の理由は説明できないけど、因果関係はありそうだね。
じゃあ破壊的イノベーションの特徴に合わせて、ここまでをおさらいしてみようか。
Ⅰ.携帯電話はカメラ画質を著しく低下させる代わりに、様々な機能を備えた製品として独自の市場を築いた。
Ⅱ.携帯電話市場が拡大されるにつれ、カメラ機能の性能も向上していった。
Ⅲ.携帯電話とデジタルカメラの性能の差がほとんど変わらなくなると、デジタルカメラ市場が縮小した。
当初は低下させた画質という価値を、再び向上させることで、デジタルカメラ市場を駆逐していったんだね。
いかにカメラ機能に優れたノウハウを持っていても、新規参入は難しいと思います。
今はカメラが趣味のヘビーユーザー層をターゲットにして、一眼レフカメラ等のハイクオリティ製品を売るしかなくなっているんだね。
そういった意味で、今後のデジタルカメラ市場の動向は注目していきたいね。
いかがでしょうか。
デジタルカメラ市場と携帯電話市場を例に、破壊的イノベーションが従来の市場を駆逐する瞬間を見てきました。
これは決してデジタルカメラ市場と携帯電話市場に限った話ではありません。
破壊的イノベーションが起こる全ての市場に言えることです。
より一般的に、破壊的イノベーションによって従来市場の大手企業が業界の地位を失う瞬間をまとめてみましょう。
Ⅰ.従来の市場で求められているある価値を低下させる代わりに、他のある価値を向上させる製品が、新たな市場を作る
Ⅱ.新市場が拡大されるにつれ、従来の市場で求められていた価値が向する。
Ⅲ.従来市場で求められている価値基準を、新市場の価値で満たされると同時に、従来市場のユーザーが新市場に移行する。
Ⅳ.従来市場の企業は、新市場での成功するノウハウを持っておらず、最悪の場合市場から撤退する。
なぜ大手企業は破壊的イノベーションにより生まれた新市場に参入しないのか
ほとんど例外なく、破壊的イノベーションが起こると従来の優良企業は、大きなダメージを負ってしまうんだ。
大手企業はこうなる前に手を打てなかったものでしょうか?
でも実際にはそうはならないんだ。
でも大手企業は新規市場に参入したくない、あるいは参入しても失敗する理由があるんだ。
Ⅰ.新市場の製品を既存ユーザーは求めていないため。
Ⅱ.新市場のユーザーは従来市場の価値基準を求めていないため。
Ⅲ.新市場は利益率が低いため。
じゃあまずは1番目の理由からだね。
またデジタルカメラの話に戻すけど、デジタルカメラ市場で求められていた価値って覚えてる?


生き残るためには、ユーザーの期待に応え続けるしかないんだ。
でもこのような業界の伸び盛りに、カメラ機能の画質の低い、携帯電話市場が生まれた。
もしこのような中で、既存ユーザー向けに携帯電話の開発を発表したらどうなるだろう?
そんな人たちにいかに便利だからって画質の低い携帯電話を売ろうとしても、反感を買ってしまうと思います!
下手したらユーザーのニーズに応えられないどころか、競争力が落ちてしまって、既存市場からも撤退させられるかもしれないね。
もし大手企業がリスクを負って新市場に参入したとしよう。
カメラメーカーが携帯電話市場に参入した場合、どんな携帯電話を作ると思う?
やっぱりカメラ機能に特化した携帯電話を作るんじゃないですかね?
でも携帯電話市場にデジタルカメラ市場の価値観を持ち込むのはナンセンスなんだ。
つまり、本来に求められている、電話機能・メール機能が充実した携帯電話が欲しいんだ。
いずれカメラ機能の充実が求められるけど、市場誕生当初では時期尚早というわけだね。
そこまではいらないから、そのぶん価格下げて~!って思ってしまうんですね。
それで、カメラの画質向上が本格的に始まった頃には、大手企業は参入不可能なほど新市場が成熟してしまうんだ。
これが2つ目の理由だね。
一般的に新市場は既存市場と比較して、利益率が低いんだ。
それに市場規模も小さく、大手企業が期待するほどのリターンが見込めないんだよね。
でも後になって取り返しがつなかくなってしまうんですよね。
破壊的イノベーションは恐ろしいですね…。
いかがでしたか?
大手企業はあくまで合理的判断のもと新市場に参入しないか、あるいは参入したとしても失敗するのです。
繰り返しになりますが、最後にもう一度大手企業が新市場に参入しない理由をまとめましょう。
Ⅰ.新市場の製品を既存ユーザーは求めていないため。
Ⅱ.新市場のユーザーは従来市場の価値基準を求めていないため。
Ⅲ.新市場は利益率が低いため。
破壊的イノベーションが引き起こされると、大手企業はなす術がありません。
しかし、企業は永続する使命があります。本書の著者は大手企業が破壊的イノベーションに対抗する手段を提唱していますが、それはまた次の機会にしたいと思います。
それではここまで読んで頂き、ありがとうございました!
関連記事⇒クリステンセンの破壊的イノベーションの意味を理解する
[…] あせて読みたい!⇒破壊的イノベーションにより大企業が滅びる理由 […]