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【5分でわかる】バリューポートフォリオをわかりやすく解説

バリューポートフォリオ・マトリックス
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バリューポートフォリオは経営戦略で用いられるフレームワークの一つです。

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)と同じく、ボストンコンサルティンググループが考案したフレームワークですが、PPMと比較すると少しわかりにくいような気がします。
もう少し詳しく知りたくてネットで調べてみても、概要をまとめたサイトしかありませんでした。

ここは自分で解説するしかない!!

という謎のモチベーションがこみあげたので筆を執りました。できるだけ詳しく、そしてわかりやすく解説していきたいと思いますのでよろしくお願いします。

1.バリューポートフォリオとは

バリューポートフォリオは事業の撤退を決断する際に用いられる戦略フレームワークです。
企業の中にあるいくつかの事業をROIとビジョンとの整合性という二軸によって評価します。

バリューポートフォリオ・マトリックス

横軸にROIを、縦軸にビジョンとの整合性を取っていますね。
経営学入門者の方はまずここでつまずくと思います。

たかぴー

そもそもROIってなに?
ビジョンとの整合性ってなんのこと??

 

そう思われる方も多いことでしょう。そこでROIとビジョンについて整理してみましょう。

1-1.ROIとは

ROIとは投資した資本に対して得られた利益のことをいいます。
具体的に資本と利益は、何を指しているのでしょうか?

ここでいう利益とは、経常利益と支払い利息をさします。
つまり売上から仕入れ、人件費、その他固定費(地代や光熱費等)を差し引いた経常利益と、会社が所有する株式や債券から得られる利益を足し合わせた額のことですね。

 

経常利益とは

企業は本業である事業から収入を得ていて、それに対してある程度費用をかけています。例えばパン屋さんではパンを売ることで売上を上げていますが、パンの材料である小麦粉を仕入れたり、販売スタッフを雇ったり、テナント店舗を借りたりしますよね?売上からこのような費用を全て差し引くと営業利益と呼ばれるものが求まります。

しかし会社の利益計算はこれだけでは終わりません。会社は本業にかかわる事業以外にも収入や費用が発生する場合があります。例えば会社が会社に対して貸し付けているお金から得られる金利などによる利益、あるいは裁判などで訴えられてしまったときにかかる費用などがあるのです。
このような営業外収入と営業外費用を営業利益に足し引きすることで、経常利益が求まるのです。

ちなみに経常利益には税金がかけられます。経常利益から税金を差し引いたのが、純利益となります。

 

それに対して資本とは、企業の借入金、社債発行、株式をさします。
借入金とは銀行から借りたお金、株式は投資家から投資してもらったお金、社債とは銀行以外から借りたお金のことです。これらのうち、借入金と社債にはお金を返す義務が発生しますが、株式にはこの義務が発生しません。いずれにせよ、企業はこれらの資本を有効活用してビジネスを展開することになります。

長々と説明しましたが、ROIとは企業が投資家(株主や銀行などの貸し手)からもらったお金で、どれだけ利益をあげられたかを表す指標なのです。
投資家の資本でどれだけ利益をあげられたかということは、事業評価の基準として投資家を意識しているということに注意が必要です。

1-2.ビジョンのとの整合性とは

ビジョンという用語がわかるかどうか、という話ですね。そんなもの知っているという方は飛ばしてしまって構いません。

「経営ビジョン」で検索すると、以下のような説明がありました。

『長期的時間軸を持って、企業の目的や使命、実現・提供すべき企業価値などの「将来あるべき姿」を明らかにしたものであり、そこに至るための企業独自の中核能力(コア・コンピタンス)や経営資源の展開方向(方針・戦略)、および企業内で共有されるべき思考・行動様式や行動規範を集大成したもの』
引用:Webli辞書

わかりにくいので、簡単に一言で説明しますね。

経営ビジョンとは、自分の会社の目標のことです。
ただし、具体的な数値目標(例えば年商10億円)ではなく、もっと抽象的に「将来ありたい姿」を書きだすのです。

例をみていきましょう。

味の素グループの経営ビジョンは以下の通りです。

私たちは、お客様に役立つ独自の価値を創出し続ける「グローバル健康貢献企業グループ」を目指します。
世界No.1の調味料事業を中核とするグローバル食品企業グループへ
世界No.1のアミノ酸技術で人類に貢献するグローバルアミノサイエンス企業グループへ
おいしさと健康を科学する健康創造企業グループへ

このように、自社がどのような会社を目指しているのかを示すのが、経営ビジョンなのです。
そして、バリューポートフォリオでいわれる「ビジョンとの整合性」とは、その事業が自社が目指す姿になるために本当に必要なのかを評価するのです。

なぜ経営ビジョンとの整合性が大切かというと、その企業のブランド力信頼性にかかわるためです。
例えばこのブログは主に経済学・経営学に関するブログとなっているので、当然読者は学問に関する記事を期待するはずです。ここでサイトを開くとアニメやゲームの話題で埋め尽くされていたら、読者の期待は裏切られてしまいますよね。
それと同じで、企業は経営ビジョンに向けて事業を行っていくことを消費者からは期待されていて、その期待にしっかりと応え続けることで、企業は信頼を勝ち取れるのです。

2.バリューポートフォリオの各セグメントに求められる戦略

バリューポートフォリオでは自社の事業をROIとビジョンとの整合性という二軸によって評価することだといいました。
もう一度図を見直してみると、ROIの高低・ビジョンとの整合性の高低によって、4つの領域にわかれていることがわかります。

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  • 本命事業
  • 課題事業
  • 機会事業
  • 見切り事業

以上の4つがあります。この4つのセグメントに分類された事業にはそれぞれどのような戦略が求められるのでしょうか?詳しく見ていこうと思います。

2-1.本命事業に求められる戦略

本命事業はROIが高く、経営ビジョンとの整合性も取れている事業です。
自社のあるべき姿に向けて、しっかりと利益を出しているという、まさに理想的な事業といえますね。

本命事業に分類された事業で求められる戦略は、さらなる拡大です。
現在のROIを保ったままで事業を拡大できれば、より投資家からの評価も受けますし、さらなるブランド力の向上を果たせるでしょう。

2-2.課題事業に求められる戦略

課題事業はROIが低いが、経営ビジョンとの整合性は取れている事業です。
自社のあるべき姿に合致した事業ですが、イマイチ利益をあげられていないというわけですね。

課題事業に求められる戦略は、利益率の向上です。
単に利益率の向上といっても、売上増加かコスト削減のどちらかを追求する必要があります。

事業の問題点を分析して、正しい経営を行えば、本命事業へと成長できる見込みは高いです。
一方で、長期に渡って利益率を改善できなければ、投資家からは撤退の圧力がかかることでしょう。

2-3.機会事業に求められる戦略

機会事業はROIが高いが、経営ビジョンとの整合性が取れていない事業です。
ゲーム制作会社の任天堂が、ゲームではなくキャラクタービジネスで儲けるようになったのと似ていますね。

機会事業に求められる戦略は、事業内容の修正か、経営ビジョン・事業ドメインの再定義です。
まずはその事業が経営ビジョンに沿う形にできないかを検討します。
例えば任天堂の経営ビジョンは「すべての人を笑顔にする」ことなので、キャラクタービジネスで人を笑顔にできればそれでいいのです。

関連記事⇒事業ドメインとは?経営ビジョンと事業ドメインの違いを解説

経営ビジョン・事業ドメインの再定義とは、経営ビジョンそのものを変更してしまうことです。少し強引ですが、自社のあるべき姿を現在の全事業に沿う形で考え直します。一見よさそうな戦略に思えますが、リスクが大きいです。

経営ビジョンや事業ドメインは、そう簡単に変えられるものではありません。なぜなら、会社が長きにわたって達成したいと考えている目標を、世間に対して高らかと謳っているので、簡単に変えてしまうとそれこそ会社の信用問題につながります。もし友人が「来月には3キロ痩せる」と宣言して、3日坊主だと呆れてしまいますよね?それと同じか、もっとひどいと考えてください。

いずれにしても機会事業を放置しておくと、企業のブランド力が損なわれます。
また、経営ビジョンと関係のない事業に従事させられている従業員のモチベーションも下がってしまうので、改善の余地がないようなら、撤退を検討しなければいけません。

2-4.見切り事業に求められる戦略

見切り事業はROIが低く、経営ビジョンとの整合性も取れていない事業です。
一過性の流行に乗って取り組んでみたものの、利益も上げられず、本業とは全く関係のない事業がこれにあたりますね。

見切り事業に求められる戦略は、撤退です。
投資家から評価されず、企業としてもブランド価値を傷つける温床になっているので、早々に撤退すべき事業でしょう。

3.バリューポートフォリオのメリット・問題点

ここまでみてきたように、バリューポートフォリオで自社の事業の優劣を見える化することができます。ある一定の基準をもって評価することで、今まで見えていなかった新たな発見が期待できますね。

それでは最後に、バリューポートフォリオのメリットと、問題点についてみていきましょう。フレームワークを活用する際は、利点・欠点を理解した上で活用することがとても大切です。

3-1.バリューポートフォリオのメリット

バリューポートフォリオのメリットは、経営者と投資家の両方の視点から事業を評価できるという点です。

経営者の視点とは経営ビジョンとの整合性を指します。
経営者が本来行いたい事業なのかどうかを考慮することで、会社全体に統一感を持たせることが可能になります。
また、企業のブランド価値を一定に保つことができる点も見逃せません。ブランド価値の向上は、企業へさらなる利益をもたらすのです。

投資家の視点とはROIを指します。
投資家が投資した資本で、どれだけ儲けることができたか考慮することで、経営者のひとりよがりな経営を防ぐことが可能になります。

以上のように、バリューポートフォリオを利用することで、経営者と投資家の両方の視点から事業ひとつひとつを評価し、バランスの取れた会社経営を行うことができるのです。

3-2.バリューポートフォリオの問題点

バリューポートフォリオの問題点は、基準が不明確であるという点です。

経営ビジョンとの整合性が取れているかどうかというのは、とても主観的であると思います
特に経営ビジョンがあまりにも抽象的な場合は、全ての事業が「整合性が取れている」と評価されてもおかしくありません。

また、ROIの基準は何%にするのが適当なのでしょうか?
5%?10%?それとも20%以上あればよしとするのでしょうか?
どこを基準にするのかは、分析者の裁量に任される部分が大きく、そういった意味でこちらも主観的であると言わざるをえません。

結局は、ビジョンとの整合性にしても、ROIにしても、自社の事業内で「相対比較して」基準を設けるということになります。
そのような曖昧な基準で「見切り事業」が生み出されていいものなのでしょうか?僕は激しく疑問に思いますね。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

バリューポートフォリオでは自社の事業をROIとビジョンとの整合性という二軸によって評価するフレームワークです。
経営者と投資家の両方の視点で自社の事業を評価し、伸ばすべき事業と切り捨てる事業が見えてくるという利点がある一方、基準が曖昧であるという大きな問題点がありましたね。

この問題点は、プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)の市場の成長率の基準が曖昧だという点と通ずるものがありますね。
関連記事⇒プロダクトポートフォリオマネジメントをわかりやすく解説

確かに考え方としては面白いのですが、個人的な見解としては実用的ではないフレームワークだと感じます。
それでもメリット・デメリットを理解した上で、上手く活用できるといいですね。

では!

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たかぴー
自己紹介:中小企業診断士の会社員。 YouTubeチャンネル 「たかぴーの中小企業診断士試験 攻略チャンネル」を運営中。 趣味:ジム・筋トレ、旅行、YouTube、ブログ 連絡先:takapi.channel@gmail.com

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