スイッチングコストはマーケティングを行う上で、絶対に抑えておきたい考え方のひとつです。スイッチングコストをうまく活用すると、新規顧客をつかまえやすくなり、そしてつかまえた顧客を逃がさない仕組みをつくることが可能となるためです。
今回はそんなスイッチングコストの意味を3種類にわけて整理してみました。意味を理解した上で、スイッチングコストを利用する戦略や、活用事例を紹介していきたいと思います。
みなさんの日々のビジネスや勉強にお役立ちできたら幸いです。
1.スイッチングコストとは
スイッチングコストとは、代替品を購入するときに必要なあらゆる費用のことです。
例えば今の財布から別のブランドの財布を買う時も、現在の財布の代替品を買うことになります。
また、バスで移動するところを、タクシーで移動するのも、代替サービスを利用したことになります。
代替品を購入するときは、その商品に支払うべき物理的な現金以外にも消費者には費用がかかっている、というのがスイッチングコストの考え方です。具体的には、どういった費用がスイッチングコストに含まれるのでしょうか?
- 金銭的コスト
- 物理コスト
- 心理的コスト
以上がスイッチングコストとして考えられています。
ひとつひとつ見ていきましょう。
1-1.スイッチングコスト①金銭的コスト
金銭的コストとは、消費者が代替品に対して直接支払うお金です。
例えばテレビを買い替えようとしたとき、3万円のテレビを買おうとすると、当然3万円を支払いますよね?この3万円が金銭的コストにあたるのです。
ここまでは当たり前の話ですね。基本的にモノやサービスの価格を下げるときは、この金銭的コストを下げるのが一般的です。
しかし、スイッチングコストの概念では、金銭的コストではなく他の2種類のコストを下げることを提案しているのです。
詳しくみていきましょう。
1-2.スイッチングコスト②物理的コスト
物理的コストとは、代替品の購入に要する手間や時間などの費用のことです。
例えば時給800円で働いているコンビニのアルバイト店員に、事務所で利用する新しいパソコンを買ってきてもらうことにしたとします。ところがこのアルバイト店員が大真面目で、勤務時間である9時間まるまる使って、パソコンのスペック・機能・価格を比較検討し、最適なパソコンを選定したとしましょう。
結果的に、新しいパソコンは5万円で購入することができましたが、アルバイト店員には時給800円×9時間=7200円を支払わなければなりません。これがパソコンの購入にかかった時間的コストです。
つまり、新しいパソコンは金銭的コストの5万円に、時間的コストの7200円を足して、実質5万7200円で購入したことになりますね。
また、パソコンを購入した後でも、使い方を覚えるまでにある程度時間がかかるかもしれません。当然ここにも時間的コストが発生してしまいます。
このように、代替品に直接支払う金銭的コストの他にも、手間や時間なども費用換算が可能ですね。
これを物理的コストとよぶのです。
1-3.スイッチングコスト③心理的コスト
心理的コストとは、代替品の購入に対して感じる面倒さやプレッシャーのことです。
例えば引っ越しを考えてみましょう。引っ越しには家賃という金銭的コスト、新しい物件を探し回るための物理的コストが発生しますが、何よりも面倒さが先に立つという方も多いのではないでしょうか?また、新築の家の購入を検討するときも、「本当にいいのだろうか?」と、プレッシャーがかかることでしょう。
こういった具体的な金額で表せないような感情的な費用を、心理的コストとよぶのです。
心理的コストは金額換算できないという点でやっかいではありますが、概念として頭に入れておくことはとても大切です。
2.スイッチングコストを利用した戦略
消費者が商品の購入を検討する際は、無意識にスイッチングコストで比較検討しています。したがって、金銭的コストを変えずとも、物理的コストや心理的コストを操作することによって、顧客の獲得率を増加させたり、既存顧客の離脱率を低下させるたりすることが可能となります。ここではそのマーケティング戦略について考えていきましょう。
なお、考えるのは安直な金銭的コストの値下げはマーケティング戦略において悪手です。あくまで金銭的コストはそのままで、物理的コストと心理的コストで差別化を図るほうが、はるかに会社に残る利益が増えるでしょう。
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2-1.代替品購入時の戦略
代替品を購入するときに、物理的コストや心理的コストを引き下げることができれば、商品を買ってもらえる確率は上がります。
考えるべきポイントは
- 製品・サービスは比較検討しやすいように情報開示しているか
- 製品・サービスは使いやすく、わかりやすいか
- 製品・サービスは購入検討段階から十分なサポートができているか
大まかには以上の3点でしょう。上の2つは主に物理的コストを引き下げるため、最後の1つは心理的コストを引き下げるための問いです。
例えばパソコンを例に考えてみましょう。
ある家電量販店とパソコンメーカーでは、次のような努力をしています。
- パソコンのスペック・機能・価格が一覧で店内に掲示してある。
- パソコンは説明書がなくても感覚的に操作できるほど利便性が高い。
- パソコンの知識が全くないお客様にも丁寧でわかりやすく店員が対応してくれる。
これらは全てスイッチングコストを引き下げるためのマーケティング戦略です。
以上のように、他社よりも手間や面倒さを省くことができれば、商品の購入確率は格段に上がるでしょう。
2-2.代替品購入後の戦略
スイッチングコストは、製品購入後にも役に立ちます。
消費者が自社商品から次の代替品を検討するときには、物理的コストや心理的コストを引き上げることができれば、自社商品にとどまる確率はあがります。
例えばクレジットカードやメールマガジンの解約のとき、どのように解約手続きをしていいのかわからず、放置してしまった経験はありませんか?これはクレジットカード会社やメルマガ配信者が意図的に解約の手間を増やし、スイッチングコストを引き上げているのです。
また、解約手続きの専用ダイヤルの人数を減らして、わざと電話がかかりにくい状態にしている企業も実際にあります。
これらはすべて、消費者を自社製品・サービスに留めておくために有効なマーケティング戦略なのです。
でもちょっとやり方が汚いですよね?
当然、やりすぎると政府や消費者センターなどから注意勧告がなされるでしょう。
そこで正攻法としては、アフターサービスを充実させるという戦略が考えられます。アフターサービスというのは、実際に利用してみて初めてその価値に気づくという面が大きいです。
例えば自社のアフターサービスにとても満足しているが、新しい製品の購入を検討しているお客様がいるとしましょう。このお客様にとって、他社でも自社と同等のアフターサービスを受けられる保証がありません。これがお客様にとっての心理的コストとして働き、結果的に他社への乗り換えを防ぐことができるのです。
以上のように、スイッチングコストをうまく利用することによって、自社に顧客をとどめておくこが可能となります。
3.スイッチングコストの活用事例
最後に、スイッチングコストを活用して市場を活性化させた事例をみていきましょう。
政府がスイッチングコストを活用した事例として有名なのが、携帯電話の番号ポータビリティ制度です。
当時、携帯電話会社をDocomoからauに変えると、携帯電話の番号は強制的に変更となりました。電話番号が変わると、当然今まで番号を登録してくれていた友人や会社関係の人たち全員に、新しい番号を伝えなければいけません。電話帳の登録人数が100人をこえている場合などでは、これは大変大きな手間となります。
これが利用者にとっての大きなスイッチングコストとなっていたのです。結果的に利用者は、最初に選んだ携帯電話会社から発売されるケータイ電話しか選択できず、業界トップのDocomoの一人勝ち状態が長らく続いたのです。
そこで政府は健全な企業間競争を促すために、番号ポータビリティ制度を導入しました。これにより電話番号が携帯電話会社に依存せずに済み、auやソフトバンクの機種へ乗り換える利用者が多くなったのです。
2016年には、ケータイ電話の料金体系が複雑すぎるとして、政府が料金体系の見直しを携帯電話会社に促していますよね。これもスイッチングコストを引き下げる取り組みのひとつと捉えることができます。
このように、政府は消費者が購買行動に不自由さを感じないために、スイッチングコストの引き下げを目的とした制度化を打ち立てることがよくあります。スイッチングコストを有効活用したい場合は、お客様の利益になるような形にしたいものですね。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回はスイッチングコストを、金銭的コスト、物理的コスト、心理的コストの3種類にまとめて解説してみました。
スイッチングコストの考え方の核心は、物理的コストと心理的コストのコントロールです。
これらをうまく活用できれば、金銭的コストを引き下げることなく、売上増加を達成することが可能となります。
ぜひ、ご自身のビジネスや勉学にお役立てください。
では!