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製品ライフサイクル:成熟期における最適な販売戦略とは

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近年、あらゆる製品・サービスが成熟期に入ってしまっています。
新しい波が現れてもすぐに陳腐化してしまい、すぐに市場は成熟期を迎える。
そんな製品ライフサイクルにおける成熟期には、いったいどんな戦略が望ましいのでしょうか?

まずはおさらいとして、製品ライフサイクルの曲線を確認してみましょう。

ご覧のように利益の成長が止まり、売上の成長が鈍化しています。
売上は伸びても、それは単価の下落によるものなので、利益は成長しないのです。

それでは成熟期の最適販売戦略について考えていきましょう。

1.製品ライフサイクル成熟期の特徴・課題

たかぴー

今回は製品ライフサイクルの成熟期について解説していくよ。
その前に、導入期成長期のそれぞれの特徴は覚えているかな?

つかさ

はい!
導入期消費者は製品の存在をほとんど知らず、売上・利益ともにほとんど出ない時期でした。
それが成長期に入ると、製品の認知度が上がって、売上も利益も爆発的に伸びるんでしたよね。

たかぴー

うん、まさにその通りだ。
そして、成熟期に入ると、その売上や利益に歯止めがかかってしまうんだ。

つかさ

儲けが無くなってしまうんですね~。
市場にうまみがないのなら、さっさと撤退したほうがいいのではないでしょうか?

たかぴー

いや、利益の成長が止まるだけであって、市場そのもののうまみはまだ残されているよ。
確かに一方で、成熟期に入った頃からそれなりの市場シェアを確保できなかった企業の撤退が始まるけどね。

つかさ

なるほど~。
市場シェアを確保できている企業は、まだまだやっていけるんですね!
市場に残り続ける企業は、どのように戦っていけばよいのでしょうか?

たかぴー

うん、それを考える前に、まずは成熟期の特徴課題を整理しよう。
問題点を抑えてから対策を考えないと、無意味な戦略になってしまうからね。

1-1.成熟期の特徴

成熟期の特徴は、3つの側面から捉えることが出来ます。

成熟期の特徴
①売上・利益の成長
②消費者の態度
③競合関係


売上・利益の成長

先程から何度か説明していますが、成熟期は利益の成長が止まり、売上は鈍化します。
価格の低下が進行する分、市場は拡大しますが、利益は従来とは変わらないのです。

消費者の態度

この時期の消費者は1度はその製品を購入したことがある、あるいは製品の購入を検討したことがある人たちです。
各社の製品特徴をある程度知っている場合が多く、慎重に製品を選択します。

競合関係

この時期になると、競合他社の市場でのポジションは明確になります。
経営学者コトラーは成熟期の企業を4つに分類しました。

成熟期の競争ポジション
Ⅰ.リーダー
Ⅱ.チャレンジャー
Ⅲ.ニッチャー
Ⅳ.フォロワー

ひとつひとつ説明していきます。

Ⅰ.リーダー
リーダーとは市場の中で最も市場を多く獲得している企業です。
ブランド力・規模の経済による価格競争力・利益率など、全ての面において競合他社より有利な立場にあります。

Ⅱ.チャレンジャー
チャレンジャーとは、リーダーの座を奪い取ろうとする企業です。
したがって、チャレンジャーは市場シェアNo.1を目指す立場にあります。

Ⅲ.ニッチャー
ニッチな市場という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
市場の中である特定の要素に強いこだわりを見せる消費者だけの市場を、ニッチな市場と呼びます。
ニッチャーとはそうしたニッチな市場をターゲットにする企業です。
ニッチな市場は規模としては小さいので、ニッチャーはリーダーに挑戦したりはしません。

Ⅳ.フォロワー
フォロワーは、リーダーの座を奪おうとするわけでもなく、ニッチャーのような特定の市場を狙っているわけでもない企業です。
波風立てず、穏便に市場で生き残り続けるのが、フォロワーの立場です。

以上のように、成熟期には3つの側面から見た特徴があります。
次は課題について考えていきましょう。

1-2.成熟期の課題

成熟期の課題は明確です。
それは、いかに自社の市場を確保して、他社の市場を奪い取るかです。

成熟期には大きな市場の成長は見込めません。
企業は本質的に利潤の追求が目的なので、自社の成長を望むなら、他社の顧客を奪い取るしかないのです。

2.成熟期の最適な販売戦略とは

たかぴー

日本国内の製品はほとんどは成熟期になっているよ。
例えば自動車やパソコン、テレビなど、身の回りの製品は大抵成熟期を迎えているんだ。

つかさ

確かに身の回りのものを見渡してみると、成熟期を迎えてそうなものが多い気がしますね。
話は逸れますが、成長する産業や製品をもっと増やすことはできないのでしょうか?

たかぴー

うーん、近年は個性の多様化所得の格差が広がっているから中々難しいんだ。
人それぞれが自分の個性を追求するから、大衆受けするような製品がなかなか作れないんだ。
また、格差が広がると一部の高所得者と、大勢の低所得者というピラミッド型の構造になってしまうよね。
そうすると高所得者向け製品は数が売れないし、低所得者向け製品は利益を生まないんだ。

※注:一般消費者向けに限った話です。

つかさ

なかなか難しい時代になったものですね。
だから海外に魅力を感じて、日本企業は外に目を向けるんですねー。

たかぴー

そうだね、でも日本の政府はただ黙っているわけでもないんだ。
新しい産業や製品に繋がる研究・開発には積極的に補助金を投入して、何とか経済の立て直しをしようとしているんだよ。

つかさ

テレビではそういう話は聞かないですけど、
そういう取り組みをしているんですね!

たかぴー

テレビはどうしても話題性のあるネタを報道せざるを得ないからね。
色々なところから情報をキャッチするようにしないといけないね。
さて、本題に戻るけど、成熟期は各企業の競争関係が明確になっているね。

つかさ

はい!
競争ポジションが4種類に分かれるんでしたね。

たかぴー

どんな市場は全くこの通りになるわけではないけどね。
基本的には各ポジションごとに最適な戦略は変わってくるんだ。
ひとつひとつしっかり抑えていこう。

2-1.リーダーの最適戦略

リーダーは業界内で最も高いシェア率を誇っているので、一般的には資金的余裕も多くあります。

リーダーが市場シェアを維持するためには、他の企業に付け入る隙を与えないことが重要となります。
例えば競合他社が値下げに踏み切れば、リーダーも値下げを行い、
真新しい製品で差別化されようものなら、リーダーも同質の製品を発売することが望ましいのです。

ここで注意しなければならないのが、あまりに露骨に上記の行動を取ると、社会的信用を失うという事です。
リーダーの強みの一つはブランド力なので、これを失うわけにはいきません。
したがって、ある程度ストーリー性を持たせた方がよいでしょう。

リーダーはイノベーションを行うことで市場そのものの拡大も狙えます。
今までその製品に全く関心を持たなかった顧客に対して受け入れられる製品開発を行うのです。

例えば、任天堂は子供向けゲーム機を開発してた企業ですが、高齢者をターゲットとした『脳を鍛える大人のDS』というソフトを開発・販売しました。
これにより、今までゲーム機を購入した事のない世代までにも市場が広がり、『Nintendo DS』は今までの携帯型ゲーム機の中で最も生産台数の多いゲーム機となることができたのです。

このようにして、積極的に市場拡大を行うこともリーダーの戦略方針となります。

2-2.チャレンジャーの最適戦略

チャレンジャーが市場シェアを奪い取る矛先としては、リーダーのいる上位市場か、自分より下の下位市場があります。
一般的に上位市場ほど販売価格が高く、利益率が高い傾向にあります。
したがって、チャレンジャーが狙うべき市場は上位市場が定石となるでしょう。

ではチャレンジャーはどのようにリーダーから市場を奪い取ればよいのでしょうか。
基本的には前述した通り、リーダーへ真っ向勝負を挑んでも、到底勝ち目がありません。
したがって、チャレンジャーは取るべき戦略は差別化です。

注意してほしいのが、ここでいう差別化はリーダーが決して真似できない差別化であるということです。
簡単に真似できるようなものでは、リーダーに打ち負かされてしまうためです。

よってチャレンジャー独自の技術ノウハウ等を利用して、徹底した差別化を図りましょう。

2-3.ニッチャーの最適戦略

ニッチ市場はその過剰すぎるほどの独自性ゆえに利益率が高いが、市場規模は小さいという特徴があります。
その為、リーダーやチャレンジャーからは差別化されており、また、彼らからすると例え奪い取れたとしても規模が小さい為うまみがありません。
従って、ニッチ市場はほとんどニッチャーの独占状態になるのです。

そのニッチャーにとっての最適戦略は、独特な顧客のニーズを確実に満足させ、逃がさないことです。
その為にはニッチ市場の顧客ニーズを徹底して追求する必要があります。
顧客との関係を密接にすることが望ましいでしょう。

2-4.フォロワーの最適戦略

フォロワーはリーダーやチャレンジャーから勝負を挑まれないことが戦略目標となります。
その為に、リーダーやチャレンジャーから見て、うまみのない顧客をターゲットとします。

具体的には、とにかく低価格を好み、少しでも企業側にミスがあると(あるいは全くなくても)クレームを言ってくる顧客層です。
このような顧客は販売価格が低い為に利益が少なく、クレーム対応で多大な費用を必要とします。
リーダーやチャレンジャーとしては、出来れば避けたいと思う顧客を敢えてターゲットにすることで、生き残りを狙うのです。

3.成熟期参入の事例

最後に、製品ライフサイクルの成熟期にあえて参入した企業の事例を見てみましょう。
成熟期は利益の成長が止まり、競合関係も明確に決まっているので、新規参入しても成功する見込みがほとんどありません。

そのような市場に参入したのが富士フィルムです。
富士フィルムはもともとフィルムカメラを開発・販売してきた会社でした。
それが2006年に当時から成熟期を迎えていた化粧品業界へ参入したのです。

精密機械の会社が化粧品分野への参入は誰もが失敗を予想しました。
しかし、富士フィルムはそれまでフィルムカメラのフィルム素材に関する基礎研究には、化粧品に大切なコラーゲンに関するノウハウがぎっしりと詰まっていたのです。
こうした独自の技術を生かした化粧品開発は、見事化粧品市場の顧客たちに歓迎されたのです。

この結果、化粧品分野は2014年度時点で富士フィルムホールディングス全体の約15%の売上高を支えるまでに成長したのです。

成熟期を迎えた市場でも、特別な技術・ノウハウを持っていれば、参入が可能だということを身をもって証明したのです。

※富士フィルムホールディングIR情報『事業セグメント別売上構成推移』より算出

4.まとめ

いかがでしたでしょうか?

成熟期は利益の成長が止まり、売上増加も鈍化し、企業はお互いのシェアの確保に注力を注ぐようになります。
そして、成長期に望まれる最適な販売戦略は各企業の業界でのポジションによって異なります。
自社がどのポジションにあるのか、そしてどのようにして自社のシェアを保持、拡大していくかを明確にした上で戦略を立てるべきですね。

次回は、製品のライフサイクルの衰退期に望まれる戦略について解説していこうと思います。

宜しくお願いします。

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